「溝ちゃんは呼び捨てに抵抗あるとか?」

「抵抗あるとかじゃないんだけど、なんか……」

しっくりこない、というのが近いのかも。

瀬野ちゃんは想像しただけでドキドキすると言っていたけど、私は……。


「想像もしづらいし、なんかこう違和感が先にきちゃうっていうか」

「へぇー、そうなん?」

「私が彼のこと“諒”って呼ぶとか……いやいやいやいや、ないないないない」

「じゃあ、三谷氏に“聡美は俺だけのものだ”とか言われたらどうよ?」

「ちょっ……誰それ、もはや絶対に別人だし」


たぶんそれ、三谷くんを装ったドドンカンだ。

そんな妄想が頭に浮かんで、心の中で苦笑い。


「何? 溝ちゃん的には今の台詞はナシ?」

「なしだね」

「瀬野ちゃんだったらキュン死だぜ?」

「なんかわかる気がする」


まっすぐな瀬野ちゃんは、ストレートな言葉が好みだよね、って。

澤君と私はふふふと笑い合った。


「俺さ」

「ん?」

「“真綾”って呼べるのが嬉しかったわけじゃなくて」

「うん」

「あ、もちろんそれも嬉しかったけど」

「うん」

「なんか、彼女がふたりの距離を縮めたいって思ってくれてるみたいな?」

「うんうん」

「その気持ちが嬉しいじゃん」

「だね」


澤君はいつも優しいけれど、真綾さんの話をするときは、いっそう優しい顔になる。

私たちは並んで歩きながら、けっこういろんな話をした。

他校恋愛の悲喜こもごも、みたいな?

そんな話をいろいろと。

中学までバレーボールをやっていた澤君は長身で、やっぱり私が見上げる感じになる。

三谷くんも背が高いけど、澤君はもっと高い。


(なんかちょっと、不思議な感じ……)