優等生の恋愛事情

ちゃんと、伝わったよね?

わかって、もらえたよね?

おずおずと顔を上げると、なんだかとても……三谷くんが愛おしそうに私を見てた。


「ごめん。僕ってやっぱり鈍感だな」


困ったように微笑む三谷くん。


「そんなっ、鈍感なんてことないよ」


まして、ドドンカン(?)なんてことも。


「僕、なんていうか、溝口さんの心の中がそんなに忙しくなっているなんて想像もしなかったよ」

「それはまあ……うん」


それは仕方ないんじゃないかなって。

恋愛経験値がぜんぜんな私でも、なんとなくわかる気がした。

男の子っていうのは、そういうものなのかなって。


「僕はね」

「うん?」

「可愛いなって思ってたよ、ずっと」

「はい?」


あ、今すごく間抜けな声だった……って――。


「可愛いなあって思いながら見てたよ、溝口さんのこと」

「…………ええっ」


胸を撃ち抜かれたような、そんな衝撃。

だって、私のこと「可愛い」なんて言う男の人、お祖父ちゃんくらいだもん、真剣に。


「あのっ」

「あ。今、心の中忙しくなってる?」

「う、うん……すっごい繁忙期」


私、何言ってんの……。


「あはは、繁忙期かぁ。おもしろいなぁ」


三谷くんは暢気そうに笑っても、私はちっとも笑えないよ。


「溝口さんの、そういうとこも好きだよ」

「えっ」

「可愛いよね、すごく」

「ええっ」


心の中が忙しすぎて「ひぃー」って悲鳴が聞こえそう。


「私、可愛くなんて……」

「本当に、いちいち可愛いんだよ?」


三谷くんは「ホントに知らないの?」って顔で私を見下ろした。


「難しい顔で数学の問題と格闘しているときも、わかったときの笑った顔も。好きな本を熱心に読んでいるときの表情も。とにかくみんな可愛いんだよ?」


力説するというより、当たり前のこと言ってますけどみたいな感じで三谷くんはのたまった。


(でもね、三谷くん……)


「溝口さんは僕が嘘を言うと思うの?」

「そんなっ、そうは思わないけど……」

「けど?」

「いやその、誰しも認識を誤ることはあるではないかと……」


なんつう理屈っぽい言い回しを……。

だって、照れくさくて仕方がないんだもん。

どんな顔していいかわからないし。

なんて言っていいかわからないんだもん。


「誤認なんてことないよ」


これはこれは、またカタい言葉で断言をする三谷くん。


「こればっかりは仕方ないじゃない。可愛いものは可愛いんだから」


仕方ないってそんな……。


「慣れてよ、ゆっくりでいいから」

「そんなこと言われても……」

「僕、何度でも言うから。だから慣れて」