優等生の恋愛事情

エレベーターがないわけじゃないけど、私たちは階段をゆっくり下りていくことにした。


「吹き抜けって解放感あるよね」


三谷くんがふいに言う。

踊り場で立ち止まって階下を見遣ると、ちょうど私たちが宿題をやっていた多目的スペースが見えた。


(けっこうカップルが来てるんだ)


さっきはあまり気にならなかったけど。

勉強に集中していたのもあるし。

けど、こうして上から全体を眺めてみるとよくわかる。

私たちと同い年くらいのカップルが、そこここにいた。


(そりゃあそうだよね)


ここはタダで、ゆっくりいられるから。

高校生にはすっごい助かるなって思う。

私は思いおもいに過ごすカップルたちを、じっと見つめた。

広すぎる4人掛けのテーブル。

片側に二人で並んで座るカップルたち。

さっきの私たちのように勉強をしているふうな二人もいれば、イスをさらに寄せてベッタリ(ねっとり?)くっついている二人もいる。


(ああやって座るのって、なんか……)


カップル感ましまし(?)な感じに、急に気恥ずかしくなった。


(もう、思い出してまたドキドキするとか!)


額を寄せ合って問題集を見ていたあの距離感。

静かで知的な彼の横顔。

穏やかな眼差し。

あのとき――優しい空気を纏う彼を、すごく間近に感じていた。


(ダメだ、やっぱりまだ慣れないよ)


「溝口さん?」

「えっ」


思わずびくりとしてしまう。


「ごめんね。あの、私っ……」

「もしかして、高いとこ実は苦手???」

「ち、違うの。好きだよ、大好き」


(やだ、私っ……)


途端に顔が赤くなるのがわかった。


(違くて!いや、違わないんだけどっ……そうじゃなくてっ)


頬が熱い、耳が熱い。

もう、何なの!

自分の台詞に自分で勘違い? 意味わかんない。

本当、ひとりで勝手に恥ずかしくなって、どうしようもない……。


「ホントに何でもないから気にしないで」


私は精一杯の笑顔を見せると、平気なふりをして階段を下りていった。