優等生の恋愛事情

図書館ではお静かに、ということで。

私たちは、ひっそりひそひそ話をした。

本当は“ひそひそ”もダメかもだけど、幸い周りには誰もいなかったから。

ま、コーナーがコーナーなだけに、なのかな。


「三谷くんは? 本、見つかったの?」

「うん。1冊だけ貸し出し中だったけど、あとは全部」


三谷くんは手に持っている文庫本の背表紙を私に見せた。


(1、2、4巻? ああ、3巻が貸し出し中だったわけね)


「SFとか読むんだね」

「うん。わりと好きなんだ」


そういえば、どんな本が好きとか知らなかったんだ、私……。


「溝口さんは?」

「へ?」

「それは……神社、だよね?」


三谷くんは私が手に持っている写真集について、やや不思議そうにたずねた。


(そりゃまあ、そうだよね……)


高校生にしてはちょっと変わった趣味かもしれないって、自分でも知ってる。

自覚はある、うん。

でもまあ、隠し立てするのもヘンだし。


「そうなの。神社の写真集なの」


私は開き直って堂々と答えた。

でも、やっぱりちょっと弱気……。


「なんか、お菓子のレシピ集とか、サリンジャーとかモンゴメリじゃなくてごめん……」


私がよくわからない謝罪をすると、三谷くんはいっそう不思議そうな顔をした。


「なんで? 何が?」

「えーと、だって……その……」


私がもごもごしていると、書架に誰か近づいてきた。


(あ、やばい)


「もう少し見ていく?」

「ううん。これ借りていくから大丈夫」

「じゃあ、とりあえず行こうか」


私たちはそそくさと書架を離れて、貸し出しカウンターで手続きをした。