優等生の恋愛事情

ここは建物の2階と3階が図書館になっていて、彼も私もお目当ての本は3階にあった。


「三谷くんのご用事はどのへん?」

「僕は小説の辺りかな。溝口さんは?」

「私はあの辺かな?」


私は「芸術・美術」の書架を指さした。


「三谷くんは自分の本を見てきて? 
私もそうするから。それでいい?」

「うん。僕はたぶんずっと同じところにいるよ。3階以外のところへは行かないから」

「わかった」

「……大丈夫かな?」


三谷くんはちょっとだけ心配そうな顔をした。


(あ、心配性の三谷くんだ)


私がよく知っている、大好きな三谷くん。

心配されているのは私なのに、なんだか三谷くんが可愛く見えちゃった。


「大丈夫だよ。でも、もし遭難するようなことがあったら三谷くんに助けを呼ぶよ」

「うん、そうして」


私、図書館で遭難っていったい……。

三谷くんも、ぜーんぜん突っ込まないという。

困ったな、もう。

本当にもう、彼のことがいちいち大好きだ……。


とりあえず別行動、ということで。

私は芸術・美術の書架でお目当ての写真集をすぐに見つけた。


(ちょっとだけ立ち読み)


借りる気まんまんなのだから、帰ってゆっくり見られるのに。

手に取るとつい嬉しくて、中を開かずにいられなかった。

本当はちょっとだけのつもりだった。

でも、こういうのってちょっとじゃ済まなくなるもので……。


「溝口さん」


小声で呼びかけられて、はっとして振り返ると、三谷くんが立っていた。


「ごめんなさいっ。私、つい夢中になって……」

「ううん。ゆっくり見てて大丈夫だよ」