優等生の恋愛事情

それからしばらく、三谷くんに数学の宿題をみてもらった。

隣に三谷くんがいる。いてくれてる。

すぐ隣なんて近すぎてドキドキって思ってたけど(実際は想像以上だし?)。

それでも、だんだんだけど、ちょっとずつ慣れてきたみたい。

すると、向かい合っているよりも、ずっとずっと集中できた。


「僕も類題とか解いてみよっと」

「えっ」

「あ、競争とか言わないから大丈夫」

「うん……」


私が「ほっ」とした顔をすると、三谷くんはふんわり笑った。


「その問題、ちょっと途中式が複雑なんだよね。でも、1つ1つ順を追ってゆっくり見ていけば大丈夫だから。焦らないでさ」

「うん」


本当に三谷くんは教え方が上手だと思う。

私には4つ年上の兄がいる。

兄に勉強ををみてもらったこともあるけれど、それはそのとき1度きりで2度目はなかった。

だって、私がなかなか理解できないと、兄はすぐにイライラしだすし。

そうすると、こっちはこっちで焦ってしまうし。

焦るほど余計にできなくなっちゃうし。

でも、三谷くんはぜんぜん違う。

絶対に急かさないし。

同じことを何度聞いても大丈夫だよって言ってくれる。

だから、いくらでも質問できちゃうし。

できるようになると三谷くんが喜んでくれるから、いっそうやる気が出てきちゃう。


(私、さっそく三谷くんのこと独り占めにしてる)


「ごめんね。私の勉強につき合わせてるみたくなっちゃって」

「ううん。気にしないでって言ったじゃない」

「そうだけど……。なんかもう、家庭教師のお兄さんみたいになっちゃったね、三谷くん」

「お兄さんかぁ」


三谷くんは楽しそうに苦笑いすると、左腕の時計に目を落とした。



「どうする? もう少しやっていく?」

「ううん。今日はここまでにしとく」


私もちょうど切り上げようと考えていたところだった。

目標よりもずっとずっと進めることができたし。


「じゃあ片付け開始。本、見に行こう?」

「うん。行こう行こう」