優等生の恋愛事情

隣に彼の空気を感じながらも、私は問題に集中した。

ドキドキしっぱなしで、せっかくの説明を聞けてないとこも正直あったけど……。

それでも、三谷くんの解説つきルーズリーフをもう1度みたら、ひっかかっていたところが、すとんとわかった。


「できた!最初は三谷くんの解説みながらやってみて、次は見ないでやったけど解けたよ!」

「よかった」


三谷くんが喜んでくれたから、私の気持ちはいっそうはしゃいだ。


「三谷くん、教えるの上手なんだね」

「そんなことないよ」

「そんなことあるよ」

「この【解答・解説】が不親切すぎるんだよ」


私が放置していた【解答・解説】を手に取って、三谷くんは朗らかに笑った。


「私、中学のときは三谷くんに勉強教わったこととかなかったね」

「そうだったかな? いや……そうだね」

「なーんか損しちゃったな。今さらだけど」


何の気なしに言ったはずだった。

でも実際は、しょんぼりしたような、拗ねたような、どこか甘えるような……そんな口調になっていた。

一瞬、三谷くんは意外そうな顔をした。でも、すぐに笑顔で言ってくれた。


「じゃあ、これからいっぱい聞いてくれたらいいよ。今までのぶんも。いくらでも」


そしてさらに「僕にわかることならだけど」と付け足して、はにかんだように笑った。


(ああ、三谷くんって……)


彼の台詞を私の脳みそは勝手に意訳した。


“これからは、いっぱい独り占めしてもいいからね”


ちょっと図々しい? でも、そんな極端に飛躍してはいないよね?(と思いたい……)。


「けど、私は三谷くんに教えてあげられることとかない気がするな……」

「そんなことないでしょ」

「そんなことあるでしょ」

「えー、そうかなぁ」

「だって、書道なんか無理だよ」

「いや、それは無理で普通なんじゃ……」

「うーん」


本当、勉強に関して私が三谷くんに教えてあげられることなんてない気がして。


「気にしないでよ。教えるのって僕自身の勉強にもなるし。それに、僕が溝口さんに教わることだってあると思うよ、絶対に」

「そうかな」

「そうだよ」

「なら……そうなのかな?」

「うん。そうなんだよ」


(なんか、すごく元気でる)


「他には? 聞きたいとこない?」

「あ、えーと――」