申し訳なさげな三谷くんに、かえって私のほうが申し訳ない気持ちになる。

別に彼が悪いわけじゃないもん。
教えてってお願いしたのは私だもん。


「あの、ごめんねっ。ちょっと待ってね」

「ううん、僕こそ。なんかこう説明しづらくて」

「そ、そうだよねっ」


私が慌てて荷物をどかせると、三谷くんはルーズリーフとペンを持って左隣の席に掛けた。


(どうしよう、近いよっっ)


「で、さっきの続きだけど――」

「う、うん」


正直、ちょっと……ううん、かなり困った。

だって、こんなに近く、すぐそばに彼がいるんだもの。

うるさすぎる心臓の音とか聞こえちゃう気がして恥ずかしい。


(でも、集中しなきゃっ)


私は三谷くんが書いてくれた計算式に目を落とした。


(集中、集中……だから、集中だってば!)


……頭ではわかっている。

今は目の前の課題に集中すべきだってこと。

気持ちだってある。

せっかく彼が教えてくれるんだもの、真剣にやりたい。

でも、心臓はちっとも静まってくれなくて……。


「この問題のポイントになるのが――」


(三谷くんの声……)


私、三谷くんの声とか話し方も好きなんだ。


ああもう、意識しちゃうと本当にどうしようもない。

鳴りやまないドキドキに困りながら、私は手元のルーズリーフの文字を、じっとじっと見つめていた。


「溝口さん、大丈夫?」

「えっ」


こちらを覗き込む三谷くんと目があって、私は「はっ」とした。

だって――。


「ごめん。わかりづらかったかな……?」


眼鏡の奥の瞳が不安そうに私を見てたから。


(ダメじゃん、私!)


私は正気を(?)取り戻した。ぜんぜん完全にじゃないけれど……。


「わかりづらいなんてことないよ。私ちょっと、一人で解けるかやってみるね」

「うん」


三谷くんは「ほっ」としたように、嬉しそうに微笑んだ。


(三谷くんが嬉しいと、私も一緒に嬉しい)


まったく調子がいいもので、私のやる気スイッチはいきなりオンになった。