他愛のない話をしていても、本当はすごく緊張していた。


「溝口さん、理科室の人体模型おぼえてる?」

「もちろん。私がバラバラにしたやつね」

「膵臓が行方不明で」

「そうそう。三谷くんが見つけてくれたの」

「あの頃から――」

「え?」


通りの樹々が熱気を帯びた夏の風に小さく揺れて、青い緑の匂いがした。


「僕は溝口さんのことが好きだったんだと思う」


(どう、しよう……)


“伝えたいことがある”と告げられて、予感をしていたはずだった。なのに……。


(なんかもう、息もできないよっ)


パピコを大事に持ったまま、私はすっかりかたまってしまった。


「高校に入って別々の学校になってからようやく気がづいたんだ。やっぱり特別だったんだって」

私も、私だって、私のほうこそ、
三谷くんはずっとずっと特別だった。

信頼できるのも、素直に話せるのも、三谷くんだけだったんだから。

でも、それがどういう特別かなんて考えたことなかった。

きっと、三谷くんは私にとって友達とよべる唯一の人なんだって。

なんとなく、そんなふうに思ってた。でも……。


「溝口さんは、つきあってる人とかいるの?」

「いない、けど…………」