横断歩道の信号待ちで歩みを止める。
そろそろ駅が見えてくる頃だ。

お店を抜け出したときは、あんなに楽しい気持ちだったのに、今は……。

うまく表現できないけれど、
なんだかしょんぼり淋しくて、
なぜだかちょっぴり切なくて。


(ああ、せっかく話せたのに。どうして……)


「危ないっ!」

「えっ……」


瞬間、私は三谷くんに庇われて体を引き寄せられていた。


(え? 何???)


「まったく、乱暴な自転車だなぁ。大丈夫?」


そうか、信号が青になった途端に後ろから自転車が猛スピードで走ってきて、私の横スレスレを通って――。


(って、私ってばいつまでくっついてるの!)


恥ずかしくて、どうしようもなくて、私は三谷くんから慌てて離れた。


「だ、大丈夫だよ。ありがとうっ」

「よかった」

「ごめんなさい、私がぼんやりしてるから」

「よかったよ、本当に」


(えっ……?)


顔を上げると、三谷くんが静かに私を見つめていた。


「こうして溝口さんと話せてよかった」


(三谷くん???)