優等生の恋愛事情

私は慌ててわさわさと辺りを探しはじめた。もちろん、三谷くんも手伝ってくれた。


「大丈夫だよ、溝口さん。この部屋の中には絶対あるはずなんだし」

「それはそうだけど。でも……」

「膵臓って背中側にひっそりあるから地味っぽいけど、胆のうみたいにミニマムなわけじゃないでしょ。二人で探せばすぐ見つかるよ」


三谷くんはそう言ってゆったり笑うと、ちょっと離れてすっくと立ちあがった。


「こういうときは全体を俯瞰するのも意外と大事だと思うんだ」

「え?」


私は低い姿勢のまま顔を上げた。瞬間、その姿に目を奪われた。


(なんてきれいな立ち姿なんだろう)


まっすぐに立って辺りを見渡す三谷くん。
ぴんと伸びた背筋と、
落ち着いていて賢そうな顔立ち。
その凛とした姿に、私はすっかり見とれていた。


三谷くんが弓道部だというのは知っていたけど、部活を見たことなんてなかったし。


前に部活の話を聞いたとき「戦績はさっぱりだけど好きだからやってる」って笑っていたけど……。


(三谷くんて、バスケとかサッカーとかよりも弓道が似合ってる。絶対に)


膵臓の捜索など忘れて、私は三谷くんの袴姿にくぎ付けだった。


「あ!」

「へ?」

「膵臓いた!窓際の棚の下に入りこんでる」

「うそ!どこどこ?」


私は三谷くんが指さすほうへ大急ぎで這っていった。膵臓は逃げも隠れもしやしないのに。


「よかった~、見つかって」

「命拾いしたね」

「それって私のこと? あの人のこと?」


私がお気の毒な人体模型を指さすと、三谷くんは涼しい顔で言った。


「両方かな」


ほんの一瞬だけ間をおいて、それから――。


「何やってんだろうね、僕たち」

「ねっ」


私たちは涙目になるほど大爆笑した。


「とりあえず、早いとこお腹いっぱいにしてやらないとだな」

「確かにお腹空っぽだもんね。ペコペコじゃなくてガラガラ……」