ハルピンさんから「そろそろ合流しない?」とメッセージがきて、僕らは旧館を出ることにした。
「リュック、僕が持つよ」
「いいよそんなっ」
「だってそれ、ものすごい重量でしょ」
「それはまあ……でも、自分のだもん」
「僕はほら、手ぶらだしさ。ねっ?」
ずっしりと重いリュックを肩に掛けると、可愛いキーホルダーがぷらんと揺れた。
彼女のリュックについているのは、レゴのハリーポッター。
僕のリュックにも同じようにレゴのキーホルダーがついていて、なんと!彼女からのプレゼントなのだ。
ちなみに僕のほうは、ハーマイオニーとロンのふたり。
こういうお揃いって実はすごい嬉しくて、とても気に入っていたりする。
それにしても――。
(何これ、つけもの石でも入ってるの!?)
「聡美さん、いつもこんなに重いリュック背負って学校行ってるの???」
「あ、違うの。今日は特別。週明けに単元テストがある教科が2つもあって。勉強するのに持ち帰るものが増えちゃって、それで……」
「なるほどね」
そうか、ならよかった。
放課後デートでいつもこんな重いの背負っていたかと思ったらもう……。
待ち合わせ場所へ着くと、来ていたのは瀬野さんだけだった。
しかも、八代は一緒じゃなくて、3人組の東雲生に何やら声をかけられていた。
「諒くんっ、あの人たち」
「大丈夫だよ。ウチの学校、そんなにガラの悪い奴いないし。あれ、たぶん同じ一年だよ」
一人で果敢に攻め込むなんて無理なんで、ああやってつるんで行動してます、と。
それが東雲クオリティ、なんて……。
もちろん僕も純然たる東雲生なわけだけど。
「瀬野さん」
「瀬野ちゃん!」
僕らが声をかけるとすぐ、思ったとおり奴らはあっさり立ち去った。
「瀬野ちゃん、大丈夫!?」
「うん。連絡先とか交換したかったみたいよ」
「ええっ」
「平気だよ、教えてないし。っていうか、普通いきなりLINEの交換なんてなくない?」
心配する聡美さんをよそに、瀬野さんは淡々と言った。
「私ね、なんかもういっぱい声かけられちゃった。アハハ……」
「瀬野ちゃん、八代君は!?」
「ああ、うん。えーとね……」
するとそこへ、ロクちゃんとハルピンさんが合流した。
「すまん、遅れた。んで、八代は?」
「なんで瀬野ちゃん一人なわけ?」
「俺らと別れてから、一緒にまわってたんじゃねえの?」
「瀬野ちゃん、なんかあった!?」
矢継ぎ早に質問するロクちゃんとハルピンさんに、瀬野さんは弱々しく微笑んだ。
「途中までは一緒だったんだけどね。部活でやってるイベントが忙しいとかで呼び出されて、それで……」
「ったく、八代の奴……」
「もう!瀬野ちゃん一人ぼっちにするとかあり得ないんだけど!」
ロクちゃんは呆れて溜息をつき、ハルピンさんはすっかりお怒りモードだ。
「ちょっと六川!あんたなんとかならないの?」
「クラスのことならともかく、部活のことはなんともなぁ」
確かに「彼女が来てるから抜けさせてもらいます」なんて1年生が言えるわけないし。
僕んとこみたいに「彼女と二人っきりでイイことしてこい!」って先輩がアシストしてくれる雰囲気じゃないもんな、サッカー部は。
けど、だからって……。
(八代、大丈夫なのかよ???)
お祭り騒ぎの喧噪をよそに、僕らのとこだけ空気がしんみり沈んでいる。
聡美さん、すごく悲しそうな顔してるし。
僕は苦し紛れに提案してみた。
「僕らもサッカー部のイベントに行ってみようよ。みんなで、お客さんとしてさ」
「おっ、それいいな。みんなで冷やかしに行ってやろうぜ!」
「行こう行こう!」
ロクちゃんとハルピンさんはノリノリだ。
けれども――。
「瀬野ちゃん、どうかな???」
優しくたずねる聡美さんに、瀬野さんはふるふると首を横に振った。
「優クンに迷惑かかるもん。だってね、一緒にいるときもずっと、いろいろ気にして落ち着かない感じだったし。私ね、本当は来たらダメだったのかもしれない」
「そんなことないよ、瀬野ちゃん!」
「そうだよ、絶対にないよ!」
泣きそうになってる瀬野さんを、聡美さんとハルピンさんが慰める。
僕とロクちゃんは「どうしたものか」と、正直ちょっと困惑した。
(八代もなぁ……。大変なのわかるけど、彼女こんなに不安がってるぞ!)
僕はちょっと考えて、これならどうかという案を言ってみた。
「だったら、せめて近くまで行ってみようよ。冷やかしとかじゃなくて、お仕事ぶりをちょっと見学くらいな感じで、八代には気づかれないようにしてさ。差入れ持っていって、僕ら5人からって渡してもらおうよ」
八代だって本当は瀬野さんと一緒にいたかったに決まってる。
瀬野さんといるのが面倒になったとか、それは絶対あり得ないと思うのだ。
先輩の呼び出しで仕方なく行くしかなかったに違いない。
それが瀬野さんに、ちゃんと上手に伝わればいいのだけど――。



