いつもなら、僕の腕の中に彼女がすっぽりおさまる感じになるのだけど。


(そうか、身長差がないからか)


「どうしたらぎゅっとできるんだろう……」

「いつもと勝手が違う的な?」

「そうそう」

「なんかちょっと悩しい?」

「悩ましいね」


かっこつかないへたれな彼氏にも、僕の彼女はやっぱり優しい。

彼女のこういうところ、めちゃめちゃ大好きだし、本当いつも救われてる。


「どうするのがいいのかな」

「どうするのがいいんだろうね」


僕らはくすくす笑い合いながら、いつもとは違う抱きしめ合い方を模索した。


「やっぱり、私がガバッといくのがよい気がする……うん。よし!」


言うやいなや、彼女は僕の首に手を回して、思い切り抱きついてきた。


(こ、これはっ……)


嬉しい、嬉しすぎる。

でも、心臓に悪いかもしれない……。


(っていうか、僕がぎゅっとされてる?)


彼女は僕を包み込んでいるようで。

それでいて、ねだるように甘えているようでもあって。

とにかく一瞬で、僕の心を“大忙し”にした。

それでも、僕が彼女の背中に手を回すと、自然とちょうどいいかたちになって――とても心地よく落ち着いた。


「諒くんはしっくりくる? くるっぽい?」

「うん。しっくりくるね」

「よかった」


嬉しそうにくすりと笑う彼女の声に、愛おしさが募る。


「僕、こういう感じも好きかも」

「うん」


そっと少しだけ体を離すと、彼女の手が自然に僕の肩に置かれた。

ときどき恥ずかしそうに目を伏せながら、彼女がためらいがちに僕を見つめる。

そんな彼女が可愛くてかわいくて仕方がない。

だから? なのに? なぜ?

僕はまた愚問であろう質問をする。


「キス、してもいい?」

「“ダメ”って言ったらしないの?」


おっと、質問に質問で返された。

こういうのって初めてだ、たぶん。

でも、怒っているとかではないらしい。

僕を試してちょっと楽しんでる、みたいな?


(もう、聡美さんが楽しそうだと僕だって楽しいんだよ?)


というわけで、さらに質問で返す僕。


「“ダメ”って言うの?」

「言って欲しいの?」

「“うん”って言ってくれないの?」

「むぅぅ。それはずるくない?」

「質問ごっこ、まだ続ける?」

「諒くんは続けたいの?」

「僕はもうお腹いっぱいだよ」

「私だって……」


眼鏡の奥のきれいな瞳が切なく揺れる。

彼女の眼鏡に手をかける僕と、それを素直にさせる彼女。


「ふたりとも眼鏡でも平気なんだろうけどさ」

「実証済みだもんね。でも――」

「うん?」

「ふたりとも眼鏡なしはどうかな、って」

「えっ」


これは想定外……!?

僕の眼鏡をそーっと慎重に外す彼女と、その仕草に完全に心を撃ち抜かれた僕。


(本当に敵わないのは、僕のほう……)


そうして、僕らはちょっとだけぎこちないキスをした。

ただ、眼鏡なしでもとくに問題ないことは実証された。

それでも平気なくらい密着していれば、だけど――。