今日ここへ彼女を連れてこられたのは本当にラッキーだった。

そして、今こうしていられることも――。

顔を上げると、僕を見下ろす彼女と目が合った。

彼女が二段上にいるから、ちょうど身長差が逆転した感じ?

違和感じゃないけれど、なんだか不思議ではある。

いつも見上げるのは彼女で、僕は見下ろすほうだから。


「諒くんの目線、なんて」


(彼女のはにかんだ笑顔が可愛すぎる件!)


同じこと思ってたとか、すごい嬉しいし。


「なんか新鮮だな」

「だね。私ってけっこう小っさい? 諒くん、背が高いから」

「すごい身長差って思ったことはないけど。15センチ以上20センチ未満ってとこ?」


そういえば、クラスの連中が話してたっけ。

自分より彼女のほうが身長高いとかないわぁ~、とか。

超小っちゃい彼女にマジ萌える~、とか。

なんだかんだで理想は10センチ差くらい、とか。

僕はそういうの気にしたことなかったけど。

たまたま自分が身長あるほうだったからか?

もし彼女のほうが高かったら気にしたのかな?

まあ、そんなこと今はどうでもよくて……。


とにかく、こうやって下から見上げても、彼女はやっぱり可愛い。

そういえば、身長差がどうのって言ってた奴らがこうも言ってたっけ。

キスするときに女の子が背伸びするのとか可愛すぎて死ぬ!とか――。


「僕が背伸びしても可愛くないな……」

「え?」

「いや、女の子のそういう仕草が可愛いいって学校で話してる奴らがいたなぁって」


彼女は一瞬きょとんとしたけれど、話が見えるとすぐ屈託なく笑った。

こういうときにドン引かずにいてくれる僕の彼女は本当に心が広いと思う。


「男の子はそういうところに萌えを見出すわけだ」

「バカだよね」


自嘲気味に笑う僕に、彼女はやっぱり優しかった。

「諒くんは大丈夫だよ」

「うん?」

「背伸びは、しなくても――」

「えっ」


瞬間――優しい気配がそっと近づいて、ふわりとキスされた。


「あのね、今日はありがとう、って……ほら、言いそびれちゃったら嫌だから、先に伝えておこうと思って……それだけ、なんだけど……」


(照れまくる彼女がやっぱり可愛い件!!)


二人きりのときに、こんな可愛いお礼の言い方されるとか!


(僕、幸せすぎて死ぬのでは……)


「なんか、私ってば唐突すぎだね」


困ったように微笑んで、ぎこちなく目を伏せる彼女。

その表情も、仕草も、すべてがたまらなく愛おしくて。

階段を一段挟んだ距離がもどかしい。


(本当、どうしようもないや……)


僕は階段を一段だけ上がった。


「ぜんぜんいいよ。すごい嬉しい」


いつもの身長差がちょうど縮まった感じだろうか?


「これだと同じ目線だ」

「これはこれで新鮮?」

「うん」


互いの鼓動が聞こえそうなくらい、一気に距離が近くなる。

けど、それだけじゃまだ足りなくて――。


「ぎゅっとしてもいい?」

「うん……」


僕はいつものように彼女を抱きしめようとした、のだけど――。


(あれ? 何かが違う……)