諒くんからは《正門のあたりにいるね》とメッセージが来ていた。

「あ、三谷と六川だ!」

ハルピンが元気に手を振り、諒くんと六川君が笑顔で応える。

二人の顔を見たら、なんだか少しほっとした。

だって、他校の文化祭なんて来たことないし。

しかも、想像していた以上に“人!人!人!”の大盛り上がりなんだもの。


「聡美さん、ちょっと圧倒されてる?」

「うん……」


本当は「ちょっと」じゃなくて「すごく」。


「まあねえ、勢いだけは他校のどこにも負けないつもりだから」


苦笑いする諒くんに、六川君がガハハと笑う。


「伊達と酔狂ってな。ほんっと、ウチって勢いとチカラわざで勝負してっからなぁ」

「これが、前に六川君が言ってた“男子校のノリ”ってやつ?」

「そゆこと」

「聡美さんには理解できないかもね」

「だあなぁ。共学女子にはわかるまい」

「えー、なんか疎外感」


拗ねる私に、男子二人は愉快そうに笑った。


(やっぱり、なんか不思議だなぁ)


中学の頃は3人でこんなふうに話したことなかったのに、今はぜんぜん違和感がない。

それはそうと――。


「諒くん、八代君は?」


瀬野ちゃんが、なんだかとっても不安そうだよ?


「八代ね、クラスのほうが忙しくて抜けられないみたいで」

「えっ……」


瀬野ちゃんの可愛い顔がしゅんと曇る。

すると、透かさず六川君が言った。

「安心してよ。奴がいるとこまで俺が案内するし。で、いいかげん抜けられるように、クラスの奴らに話つけるからさ」

「ありがとう!よろしくお願いします!」

「おう」


(なんか、六川君って感じだなぁ)


このあいだ、うちの文化祭に来てくれたときに話してみてわかったこと。

それは、六川君は細やかな人だってこと。

中学の頃は、やんちゃな朗らかな人ってイメージだったけど。

本当は、周りが見える少し大人びた男の子だったみたい。


「んじゃ、瀬野さんを八代んとこに連れてったあと、池っちは俺と回るでいいよな?」

「ええっ!ハルピン? 私聞いてないよ?」

「そーゆーことだから。溝口は三谷とふたりで濃密な時間をどーぞー」

「俺と池っちのことは気にすんな」

「そうそう、気にすんな」


まるでクラスの友達みたく気さくに話すハルピンと六川君。

それから、早く彼氏に会いたくてたまらないという様子の瀬野ちゃん。

私と諒くんを残して、3人はさっさと連れ立って行ってしまった。


「じゃあ、僕らも行こうか」

「うん」


(あっ、手……)


彼がためらいなく私の手をとってくれたのが、素直に嬉しくてきゅんとする。


(なんだか、いつもと違って緊張するよ)


ブルーのシャツもネクタイも見慣れた制服のはずなのに、今日は新鮮に見えちゃうし。


(私、はしゃいでる? でもやっぱり、諒くんのクラスの人とかに会ったら、何か……)


「諒くん」

「うん?」

「なんていうか……冷やかされたりとかしたらごめんね」

「僕はぜんぜん。聡美さんこそ」

「わ、私はいいの!知らない人に何言われてもどうでもいいから!うん!」


全力で主張する私を、諒くんは愛おしそうに見下ろした。


「僕も同意かな。それに――」

「それに?」

「自慢の彼女だから」


(今、さらっとすごいこと言われた!?)


諒くんが心からそう思って言ってくれてるってことは、ちゃんとわかってる。

それはすごく嬉しい。

でも、嬉しいのだけど、なんかやっぱり褒められることにまだ慣れなくて。

どんな顔したらいいのか困ってしまう。


「あ、ありがとう、ございますデス……」

「どういたしまして。というか、こちらこそかな?」

「へ?」

「照れてる聡美さんも可愛いよね」


(あぅぅ……)


完全に手のひらの上でころがされてる感じ?

ちょっと悔しい気もするけど、ぜんぜん嫌じゃないから、やっぱりいっそう困ってしまう。