猫耳メイドさんに手を引かれながら歩いている僕は、今日ここへ来ている東雲生の中で一番幸せな奴かもしれない。


「あのね、実は靴がちょっと大きいの」

「そうなの??? それでさっき?」

「そう。このエナメルの靴は借り物なんだけど、23.5の私にはちょっとゆるいみたいで」

「23.5!? 足、そんなに小さいの!?」

「えっ、女子では標準だと思うよ???」


女の子の靴のサイズなんて考えたことなかったし、僕的にはかなりびっくりしたのだけど。

逆に、僕の仰天ぶりが彼女には不思議だったらしい。


「じゃあ、諒くんは何センチなの?」

「僕? 僕は27かな」


今度は彼女が驚く番だった。


「ええっ!そんなに大きいの!?」


(あ、びっくりした顔も可愛い)


もう、いちいち可愛いから困ってしまう。


「たぶん27は男でも大きいほう。うちの学校はがたいのいい奴も多いから、足デカい奴も多くて、だからあんまめずらしくない気になってたけど」

「そうなんだぁ。初めて知ったよ」


何でもない顔をして他愛ない話をしながらも、僕はちょいちょい周りの視線を感じていた。


(聡美さん、たぶんぜんぜんわかってないんだろうなぁ)


男たちからの羨望の眼差しが、刺さる刺さる。

それはまあ悪い気はしない(僕ってイイ性格してると自分でも思う)。

ただ、彼女のことが心配だった。

なにせ、出会いを求める男子高校生がうじゃうじゃ来ているわけで。

聡美さん本人は全力で否定するだろうけど、僕の彼女は本当に可愛いから。

猫耳メイドなんてオプションがついたらもう……。


部室棟という建物へ向かう途中、僕は“共学校の普通”というのを思い知らされた。


「あ、ヨシ君先輩お疲れさまでーす」

「おう!溝ちゃん、お疲れー。俺もあとから友達連れて猫ちゃんカフェいくから」

「もう!“わんにゃんカフェ”ですってば!」

「ああ、そうそうそれな。そうだ、明日のチラシ当番よろしく頼むな」

「了解です!」


今の男の人は部活の先輩とか???

そうかと思えば、今度は着物男子に声をかけられてるし。


「溝ちゃん、乙~」

「赤羽君、乙~。茶道部さん大盛況なんだって?」

「まあね。いやぁ、囲碁部さんの協力のおかげッスよ。あ、俺のクラスのお化け屋敷、よかったら彼氏さんと来てよ」

「うん、ありがとう」


今のは部活繋がりのある他クラスのお友達???

かと思えば、また他の男子から声をかけられてるし。

って、あれは? 彼は確かこのまえ見かけた……???


「溝ちゃん!」

「あ、ウル君。どうしたの?」

「小湊、見なかった?」

「コミーなら、受験生向け相談コーナーにいると思うよ、たぶん」

「そっか!サンキュ!」

「うん」


そうそう、文化祭実行委員の漆原君だっけ?

それにしても、だ……。


「諒くん???」

「えっ。あ、何でもないよ。うん」