“三谷くん”がすごく練習してたの知ってたし。

いくら練習しても自信なさそうに不安がっていたのも知ってたし。

自分が「私やります」って言えなくて、彼に押し付けたみたいな負い目もあったし。

だから、クラスメイトとして……。

でも、本当はそれだけじゃなかったんだ。

そういうのじゃ、なかったんだ。


(私、やっぱりあの頃から……)


積もった想いが、雪崩みたいに一気に押し寄せてきたみたい。


(なんか、胸がいっぱいになっちゃった)


胸がじーんとして、涙が出そうで出なくて、でもすっごく泣きたくなるような。


(どうしよう、間奏もうすぐ終わっちゃうっ)


「聡美さん???」


諒くんが演奏する手をとめて、心配そうに私の顔をのぞきこむ。


「あ、ごめんなさいっ。私……」

「何か、嫌なこと思い出しちゃった……?」

「違っ、そうじゃなくてっ」


本当にそうじゃないんだもの。


「私、思い出したっていうか。思い出して再認識したっていうか……」

「僕が聞いてもいいこと?」


優しい彼の声に心が震える。


「諒くんに、聞いて欲しいことだよ」


(ああ、どうしよう)


こんなに好きだったなんて。

ずっとずっと好きだったなんて。

もうわかってた気でいたけど、ぜんぜんわかってなかった。


「私ね」

「うん」

「やっぱりね」

「うん」

「あの頃から好きだった、諒くんのこと」


目を伏せたまま、気持ちにまかせて言っていた。

でも、勢いで言ってしまったら、急にどうしようもない恥ずかしさでいっぱいになって……。


「だ、だからその……そう!合唱コンクールのときも伴奏ばっかり気になって。一応歌ってはいたけど、秋山君の指揮とかも本当はあんまり見れてなくて。だから、ちゃんと指揮を見れてなかったのは私も同じっていうか……」


(もう何言ってんだかわからなくなってきた)