優等生の恋愛事情

他愛ない話をしていても、やっぱりいつもと少し違う気がした。

初めての制服デートが効いてるのは絶対。

いかにも高校生カップルって感じが嬉しくて、心の中は「キャー!」って大はしゃぎだもん。

でも、もっと大きな理由は……。


いつも散歩する大きな公園を抜けて少し歩くと、巨大なマンション群が広がっていた。


「あっ、コンビニとかあるかな?」

「もうウチ着いちゃうよ?」

「ええっ」


気づいたときには遅かった……。


「ごめん、何かお土産にお菓子とか飲み物とか買って行けたらって思ったんだけど……」

「気を遣わないで大丈夫だよ。お土産はこいつで十分だから」


諒くんは右手に持っている紙袋を軽く持ち上げて見せた。


「うん。あ、ありがとう……」


(どうしよう、なんか緊張してきたっ)


お家に誰もいないのは知っている。

ちなみに、お家の人は私が来ることを知っている。

私が「親御さんの留守を狙って家に上がりこむみたいでちょっと罪悪感……」と言ったから。

諒くんが「彼女が来るって伝えて了承を得たほうがいい?」と言ってくれて。

結果、ご両親はあっさり「どうぞ」と了承してくれた。

諒くんは「うちの親は放任だから」と言う。

でもきっと「気にしてない」とか「無関心」ってことはないと思うのだ、絶対に。

諒くんを信頼しているっていう、そういうことなんだろうなって。

ちなみに、私のほうは彼氏ができたことをなんとなくまだ親に言えずにいるのだけれど……。


オートロックの扉の向こうは思ったよりも冷房が効いていて、とてもとても静かだった。

彼が郵便物や宅配ロッカーの確認をしている間も、気持ちはそわそわしてばかり。

それを覚られまいとすると、余計に緊張した。


「うちは13階だよ」

「あ、うん……」


エレベーターを待っている間も、言葉少なになっちゃうし。

エレベーターが来たら来たで、狭い空間にふたりきりだと、いっそう気づまりな感じがして。

そんな様子に、彼が気づかないわけがなかった。


「なんか緊張してる?」

「えっ、あの…………うん」

「親いないし、気楽にどうぞ」

「う、うん」


(それは、わかってるんだけど……)


「聡美さん?」

「えっ」

「大丈夫だよ」

「え?」

「何もしないし」


(えっ……!)


「あのっ」

「何もしないから…………たぶん」


(…………“たぶん”!?)


「あ、ついた。先、降りちゃって」

「う、うん」


絶妙のタイミングでエレベーターの扉が開いて、中途半端のまま会話終了。


(私、どう思ってたらいいんだろ???)


思い切り気楽に“りらーっくす”してたらいい?

そしたら、“たぶん”は聞かなかったことにしちゃっていいの?


(わからないよ、もう……)