あの頃は、はっきり意識していたわけじゃないけど。

それでも、ロクちゃんの指摘したとおり。

きっと、僕は彼女の中で特別な位置にいるような、そんな気でいたんだ。

今思えば、無意識とはいえ自惚れるのもほどがあるって感じだけど。


「おまえさ、自分ではぜんぜん気づいてなかったろうけど、彼女のことすげー見てたぜ」

「いや、それは……」


いつも一人でいるし。

いろいろ大丈夫かなぁ、とか。

厄介事に巻き込まれてないかなぁ、とか。


「あれだ、同じ女子でも淀川(よどがわ)の扱いとは雲泥の差だったな」

「そんなの当然だろ」


よもや、その名前を聞こうとは……。


「僕はあの人嫌いだから」

「温厚なおまえがそこまで言うってよっぽどだよなぁ」


淀川リナを動物に例えるならコウモリだと僕は思う。

いや、コウモリというよりカメレオン?

相手によってコロコロと態度を変える。

息を吸うように嘘をつき、陰口をたたく。

クラスの中のいわゆる派手めな女子たちから無視されるようになったとき、淀川リナは聡美さんに擦り寄った。

それまでは、上から目線で「地味グループの人たち」なんて見下していたくせに。

聡美さんが、他の女子たちのように無視に同調しないとわかっていて、いわば利用したのだ。

もちろん僕は気に入らなかった。

一言でも二言でも言ってやりたかった。

でも、女子のいざこざに男子の口出しは厳禁だ。

悪くすれば、かえって事を拗らせてしまうことにもなりかねない。

聡美さんは淡々とやり過ごしているかに見えたけど、僕はずっともやもやしてた。


「ほんっと、諒は淀川にそっけなかったもんなぁ」

「最低限必要な事務的な会話はしてたはずだよ、僕は」

「積極的に話しかける女子は溝口さんだけだったもんな」


そう、全部ロクちゃんの言う通りだ。


「とにかくさ、うまくいってよかったじゃん」

「そうだね」

「彼女、色っぽいしなぁ」

「だからっ、ロクちゃん!」


さっきからずっとのこの流れ……。

僕のことを冷やかし半分からかっているんだろうけど。

でも、あながちそれだけでもないような?