「じゃあ、僕らも行こうか」
「うん」
どちらからともなく、自然につながる手と手。
恋人つなぎもドキドキして素敵だけれど、いつものつなぎかたも好き。
つないだ手をふいにきゅっと握れば、同じようにきゅっと握り返してくれる。
でも、お互いにそのことには何も触れないまま。
言葉は交わさないのに、交わさなくても……ううん、あえて言葉を交わさないから、なんだかちょっとドキドキする。
ドキドキもするけど、ほっこりもする。
「諒くん」
「うん?」
「……ううん、なんでもない。呼んでみただけ」
本当は聞いてみたいことがあった。
でも、なんとなく言うのが躊躇われて。
友達の彼氏のことをあれこれ詮索するとか、やっぱりよくないし。
「いい奴だよ、八代は」
「えっ」
「あいつ、すごいいい奴なんだよ」
そうやってまた、諒くんは私の心を読んじゃうからっ。
「お世辞にも愛想がいいとは言えないし。ちょっと近いよりにくい感じあるかもしれないけど」
「うん」
(あ、遠慮なく「うん」とか言っちゃった)
「八代って、とにかく真面目な奴なんだよ」
からんころん歩きながら、諒くんは学校での八代君のことを話してくれた。
「僕は委員会が一緒だって話したことあると思うけど」
「うん」
「環境委員なんて、地味で面倒な汚れ仕事ばっかりでさ。どうにかサボろうとする連中もけっこういるわけ」
「それ、なんか中学のときと似てるような?」
「まあね。でも、八代は違うんだよ。文句も言わず逃げもせず黙々と働くの。で、僕が大変そうな作業とかしてたら、さらさらーっと来て、ガガガガガって手伝ってくれたりするわけだよ」
「へぇー。なんかすごい」
「いい奴でしょ?」
「うん」
「あいつ、サッカー部なんだけどね。部活でも練習熱心で礼儀正しいもんだから、先輩にずいぶん可愛がられてるらしいし」
諒くんは「ロクちゃん情報なんだけどさ」と笑った。
(八代君、やっぱりいい人なんだ)
「あいつ、けっこうモテるみたいなのに、浮っついたとこないし」
「そっかぁ」
「なんていうのかな、えーと」
「ストイック?」
「ああそう、そういう感じかな」
「ふーん」
カッコよくて、スポーツマンで、ストイック。
それって、ファンとかいっぱいいてキャーキャー言われる典型みたいな……。
そんなこと言ったら、瀬野ちゃんは怒るかな?
それとも「もうほんとそうなのお~!」とはしゃぐかも?
諒くんの話を聞いて、瀬野ちゃんが八代君を好きになったのが頷けた。
そして、なんとなくだけど、私の八代君への誤解がとけた。
「八代君って不器用なんだよね?」
「そう。不器用で不愛想」
「ときどき無自覚で不調法?」
「そのとおり」



