コンテストが始まるのは、男子が10時から、女子は1時からだ。
オレは入念に最終チェックを行った。
ネクタイは曲がってないか、髪はまとまっているか、変な顔をしていなか。
変な顔は...しちゃってるな。
顔がひきつっている。
「青柳先輩、大丈夫っすか?リラックスっすよ!」
白鷺は今日も絶好調らしく、オレを肘でこずいてくる。
緊張知らずでいいヤツだな。
オレは白鷺を見ながら百合野を思い出した。
そういや、百合野はどっちに入れるのだろう。
昨日は2人で仲良くやっていたように感じたが、本心はどうなんだろう。
「あれ?誰かいますよ」
白鷺が扉を開けた。
その先には見慣れた制服姿の彼女がいた。
「えっと...どちら様っすか?」
「こんにちは。私は波琉くんのカノジョの真砂汐泉と申します」
白鷺は驚きまくり、オレと汐泉を交互に見、次の瞬間、衝撃的な一言を放った。
「いやあ、マジっすか!
おれ、てっきり、青柳先輩はこと先輩が好きなのかと思ってたんすよー。先輩達、すっげえ仲良しだから」
血の気が引いた。
それはこの場で言ってはいけないことだったのにばっちり言ってしまってるではないか。
最近の汐泉は、こういうのに敏感だから止めてほしい。
オレは恐る恐る汐泉の顔を見た。
汐泉の顔にはどんな表情も浮かんでおらず、ただ空を見つめていた。
こういう場合、オレは一体どんな顔して、どんなことを言うべきなんだ?
沈黙が1番怪しまれる。
オレは汐泉に近付いていった。
「汐泉、来てくれてありがとう。さっき白鷺が言ったことなんだけど...」
「あっ、ぜんっぜん、気にしてないよ!私、そういうこと信じないから。信じるのは波琉くんだけだよ」
「ありがとう、汐泉」
オレたちの会話を聞いていた白鷺が黙っているはずがない。
「熱いっすねえ!これぞまさに愛っすね!失礼なこと言ってすみませんでした」
ったく、コンテスト前にハラハラさせないでくれよ。
多少なりとも緊張してんだし。
お願いだから、これ以上心臓に悪いことは言わないでくれ!
「波琉くん、客席から応援してるね!じゃあ、また後で」
「じゃ」
汐泉をドアまで見送ると、汐泉は嬉しそうに笑っていた。
最近は、お互い怖い顔して会っていたから、こうして笑いあえることが奇跡のような気がした。
...そうだ。
この感じだ。
この笑顔にオレは救われてきたんだ。
汐泉を見送り、踵を返した。
その時だった。
「あっ...」
オレはその声に反応し、立ち止まった。
オレは五感で嫌な気配を感じ取った。
...何かが起こる。
「波琉くん」
汐泉の声だ。
迷わず振り返る。
汐泉の後方にアイツが写りこんで...。
―――...っ。
柔らかな唇が勢い良く降りてきた。
これは...
これは...。
「うわっ!」
白鷺の叫び声が耳を通過し、それと同時に足音が一瞬で遠ざかっていった。
「びっくりした?」
汐泉がオレの首に両手を回し、微笑んでくる。
オレは小さく頷き、まだ残る感覚に動揺していた。
「今度こそ、じゃあね」
オレは何も言えず、呆然と汐泉の後ろ姿を見つめていた。
なぜだか、胸の奥底から怒りにも似た熱い感情が湧いてくる。
不思議だ。
好きな人からのキスなのに、全然嬉しくない。
それより、なんだ、この感情は?
取り戻したものはどこに行ったんだ?
一瞬で蒸発してしまったのか。
「青柳先輩、大丈夫っすか?」
白鷺がオレにハンカチを渡してくる。
意味がわからない。
これで口を拭けとでも言うのか。
「先輩、グランプリ取る前から嬉し涙は禁止っすよ」
...えっ?
涙?
オレは目元に手をやり、手の甲でそっと拭いた。
手の甲はしっとりと潤っていた。
なぜ?
なぜ?
なぜ?
なぜ泣いている?
オレ...どうしたんだ?
「あっつあつでヤケドしそうっすよ!つうか、そろそろ始まりますから、青柳先輩、ノロケモードオフにして下さいね」
そんなモード、発動していない。
オレの涙は嬉し涙なんかじゃない。
その証拠に、今、胸の奥がズキンズキンと痛むんだ。
なぜこんな気持ちになってしまうのだろうか。
オレは、汐泉が好きではないのか。
いや、そんなはず
そんなはず...
ない、
よな?
オレが好きなのは、
会いたいと思うのは...。
「君たち、そろそろステージに移動してくれ」
赤星昴がオレに近付いてくる。
「俺のライバルは、君しかいない。正々堂々と戦おう」
オレはひとまずこの感情を押し殺すことにした。
ふと沸き起こり、俺を捕らえて離さないこの感情をオレは忘れなければならない。
「先に行っててくれ」
オレは深く深く深呼吸をした。
お願いだ。
この感情よ。
消えてくれ。
オレを、
取り戻させてくれ。
オレは入念に最終チェックを行った。
ネクタイは曲がってないか、髪はまとまっているか、変な顔をしていなか。
変な顔は...しちゃってるな。
顔がひきつっている。
「青柳先輩、大丈夫っすか?リラックスっすよ!」
白鷺は今日も絶好調らしく、オレを肘でこずいてくる。
緊張知らずでいいヤツだな。
オレは白鷺を見ながら百合野を思い出した。
そういや、百合野はどっちに入れるのだろう。
昨日は2人で仲良くやっていたように感じたが、本心はどうなんだろう。
「あれ?誰かいますよ」
白鷺が扉を開けた。
その先には見慣れた制服姿の彼女がいた。
「えっと...どちら様っすか?」
「こんにちは。私は波琉くんのカノジョの真砂汐泉と申します」
白鷺は驚きまくり、オレと汐泉を交互に見、次の瞬間、衝撃的な一言を放った。
「いやあ、マジっすか!
おれ、てっきり、青柳先輩はこと先輩が好きなのかと思ってたんすよー。先輩達、すっげえ仲良しだから」
血の気が引いた。
それはこの場で言ってはいけないことだったのにばっちり言ってしまってるではないか。
最近の汐泉は、こういうのに敏感だから止めてほしい。
オレは恐る恐る汐泉の顔を見た。
汐泉の顔にはどんな表情も浮かんでおらず、ただ空を見つめていた。
こういう場合、オレは一体どんな顔して、どんなことを言うべきなんだ?
沈黙が1番怪しまれる。
オレは汐泉に近付いていった。
「汐泉、来てくれてありがとう。さっき白鷺が言ったことなんだけど...」
「あっ、ぜんっぜん、気にしてないよ!私、そういうこと信じないから。信じるのは波琉くんだけだよ」
「ありがとう、汐泉」
オレたちの会話を聞いていた白鷺が黙っているはずがない。
「熱いっすねえ!これぞまさに愛っすね!失礼なこと言ってすみませんでした」
ったく、コンテスト前にハラハラさせないでくれよ。
多少なりとも緊張してんだし。
お願いだから、これ以上心臓に悪いことは言わないでくれ!
「波琉くん、客席から応援してるね!じゃあ、また後で」
「じゃ」
汐泉をドアまで見送ると、汐泉は嬉しそうに笑っていた。
最近は、お互い怖い顔して会っていたから、こうして笑いあえることが奇跡のような気がした。
...そうだ。
この感じだ。
この笑顔にオレは救われてきたんだ。
汐泉を見送り、踵を返した。
その時だった。
「あっ...」
オレはその声に反応し、立ち止まった。
オレは五感で嫌な気配を感じ取った。
...何かが起こる。
「波琉くん」
汐泉の声だ。
迷わず振り返る。
汐泉の後方にアイツが写りこんで...。
―――...っ。
柔らかな唇が勢い良く降りてきた。
これは...
これは...。
「うわっ!」
白鷺の叫び声が耳を通過し、それと同時に足音が一瞬で遠ざかっていった。
「びっくりした?」
汐泉がオレの首に両手を回し、微笑んでくる。
オレは小さく頷き、まだ残る感覚に動揺していた。
「今度こそ、じゃあね」
オレは何も言えず、呆然と汐泉の後ろ姿を見つめていた。
なぜだか、胸の奥底から怒りにも似た熱い感情が湧いてくる。
不思議だ。
好きな人からのキスなのに、全然嬉しくない。
それより、なんだ、この感情は?
取り戻したものはどこに行ったんだ?
一瞬で蒸発してしまったのか。
「青柳先輩、大丈夫っすか?」
白鷺がオレにハンカチを渡してくる。
意味がわからない。
これで口を拭けとでも言うのか。
「先輩、グランプリ取る前から嬉し涙は禁止っすよ」
...えっ?
涙?
オレは目元に手をやり、手の甲でそっと拭いた。
手の甲はしっとりと潤っていた。
なぜ?
なぜ?
なぜ?
なぜ泣いている?
オレ...どうしたんだ?
「あっつあつでヤケドしそうっすよ!つうか、そろそろ始まりますから、青柳先輩、ノロケモードオフにして下さいね」
そんなモード、発動していない。
オレの涙は嬉し涙なんかじゃない。
その証拠に、今、胸の奥がズキンズキンと痛むんだ。
なぜこんな気持ちになってしまうのだろうか。
オレは、汐泉が好きではないのか。
いや、そんなはず
そんなはず...
ない、
よな?
オレが好きなのは、
会いたいと思うのは...。
「君たち、そろそろステージに移動してくれ」
赤星昴がオレに近付いてくる。
「俺のライバルは、君しかいない。正々堂々と戦おう」
オレはひとまずこの感情を押し殺すことにした。
ふと沸き起こり、俺を捕らえて離さないこの感情をオレは忘れなければならない。
「先に行っててくれ」
オレは深く深く深呼吸をした。
お願いだ。
この感情よ。
消えてくれ。
オレを、
取り戻させてくれ。



