ケーキをオーブンで焼いている間。

王子のお母さんは「お茶しましょう」と言って。

ハーブティーを淹れてくれた。

一般家庭でハーブティーが出るなんて。

なんて、お洒落なんだろうと感動した。

ただ、ハーブティーと共に出てきたのが、醤油煎餅という。

不思議な組み合わせだった。

「主人の義父がね、甘いの食べない人でね。昨日バレンタインだったでしょ。だから、甘くないケーキはどうかなって思って」

「ぇ…」

そういえば、福王寺家って甘党だと聴いていたから。

誰が食べるのだろうと思っていたけど。

王子のおじいちゃんか…。

でも、確かおばあちゃんも、おじいちゃんも亡くなっているのでは…

「……」

王子のお母さんの視線の先に。

そうか、仏前におそなえするケーキなのかと感じ取った。

「真一郎さんって、小さい頃どんな子供だったんですか?」

王子のお母さんを見ていると。

王子の小さい頃が今から、そんなに遠くない時代だと思ってしまう。

でも、実際は30年以上も昔の話なんだなって気づく。

「そうねぇ。シンは馬鹿だったわ」

「バカ?」

綺麗な顔をした女性が思いっきり「馬鹿」と言う違和感。

大きな目でお母さんは私を見るので、ビクッとしてしまう。

「何をやらせても、馬鹿で。何をやらせても、駄目な子だったわ」

「それは…」

言いすぎじゃないのかなって思った。

ふと、いつだったか王子がご両親のことを「あの人たちは俺に興味がないから」と言っていたのを思い出した。

「お姉ちゃんが本当に何でも出来る子だったからねー。比べてしまうと、どうしてもシンはね」

「……」

王子のお母さんがハーブティーを飲んだ。

「私も主人も働いていたからね。シンの面倒はいつも義父と義母が面倒見てくれていたのよ。だから、あの子はおじいちゃんっ子、おばあちゃんっ子だった」

「そうなんですか」

私もハーブティーを飲んだ。

飲みなれない味と香りだ。

自分の実家だったら、お客さんが来たら安い緑茶か、ほうじ茶しか出さないんだろうなと思った。

「そういえば、お料理好きなんですよね?」

王子の話をしていると。

王子のお母さんは何とも言えない表情をしている気がしたので。

話題を変えた。

「え、私? そうね、好きよ、お料理作るの」

ふふっと王子のお母さんが微笑んだ。

「でも、片付けが大嫌いなのよ。だから、カツ子ちゃんみたいに要領よく作りながら合間見て片付けられるのが羨ましいわ」