距離感

「ねぇー、ふくふく。飲みに行こうよ。私が復帰したお祝いにさー」

「ええ!? 病み明けなのに飲みに行くの?」

仕事中、彼女は寝るか喋るかのどちらかしかしていない。

「駄目よ、あかりちゃん。身体が本調子じゃないのにアルコールは駄目よ」

ピシャリと香川さんが注意する。

「えー、私。ずっと入院生活だったんだよ。娯楽が欲しいよ」

「じゃあ、ご飯会かお茶会しようか」

王子は優しく、要さんに言った。

まるで、お姫様のようだった。

そんな光景を見ながら。

私の心の中は「ハイハイハイ」と聞き流していた。

聞き流さなきゃ、本当に仕事に集中できない。

地獄のような8時間労働を終えて。

逃げるようにして家に帰る。

そして、スマホで一通のメール通知を見て。

どうすればいいのだろうかと悩んだ。

「ふぅー」

ため息しか出ない。

コートを脱いでハンガーにかけて。

暖房のスイッチをピッと押して。

手を洗って。

もう一度スマホを見る。

フェイスブックの友達申請が1件。

要あかりサンからの友達申請。

基本的に私はSNSの類はやっていない。

LINEは便利だから使っているけど。

こういうフェイスブックやTwitter、インスタなんかは。

友達に言われて登録だけしている。

実際に活用はしていない。

なのに、帰りの電車でいきなり通知が来て。

要さんからの友達申請にはビックリした。

何かの罠じゃなかろうかと思った。

こういう時は、無視すればいいのかもしれないけど。

無視したら、したで。あの子のことだ。

明日になれば、「何で、友達になってくれないの。今、承諾してよ」

と皆の前で騒ぎ立てるに違いない。

「えー、これは承諾しなきゃ駄目なのかー」

一人暮らしをすると、独り言が増えるって言っていたけど。

今夜は凄く自分でブツブツ言っている気がする。

覚悟を決めて、承諾すると。

タイムラインに見たくもない画像が表示されて。

しかも、ガッツリ見てしまって。

凹んだにも関わらず、とり憑かれたように色々と見てしまった。

1時間ほど、見た後。

私はスマホを充電器に差し込んで。

立ち上がった。

「うん、無理だ」