王子の家のキッチンはなかなかの広さだ。

ちょこまかと動いて。

野菜を切っているのを見て。

「もしかして、カッチャンって料理得意なの?」

と、王子が真顔で聞いてきた。

今更、どういう質問なんだと思ったが。

「そうでもないです」

とだけ、答えておいた。

料理が作れなきゃ、此処に来てないんだけど…。

シチューとサラダが出来上がって。

王子のお母さんが買ってきたパンをそえて。

ダイニングテーブルに4人が座る。

王子のお父さんは、石原軍団にいそうなダンディーなオジサンに見えた。

この2人から、王子が生まれたのかと、

チラリと横眼で王子を見る。

「いただきます」

福王子家の皆はちゃんと手を合わせて頭を下げる。

そして、みんなパクリとシチューを口にする。

「美味しい!」

「ほんとだ、母さんの100倍は美味しいな」

「凄い、プロみたいねー」

と3人が口々に感想を述べてくれる。

その言葉に肩の荷がおりた。

ホテルに入社した頃、最初の3ヵ月はほぼ研修という名の修行だった。

研修場所はホテルだけなのかと思っていたら。

ある日、料理長の家で家庭料理を作るという課題があった。

それが、今。生かされていることに。

今更ながら感謝している。

実はほんっとに緊張していたのだ。

レシピなんてあてにならない。

家庭によって味覚は違うのだから・・・

「シンが、女の子連れてくるなんてアヤちゃん以来じゃない?」

透き通る声で王子のお母さんが言った。

王子は、ご両親から「シン」と呼ばれているようだ。

(アヤちゃん・・・?)

と言われて、王子を見ると。王子は露骨に嫌なカオをして。

「カッチャンの弟さんは農家なんだってー」

と話題を変えた。