「そこまでだよ、結衣」
そう言って私の手を握ると、
「結衣が何か迷惑かけたな?でも世の中には病気で戦っている人がたくさんいる。そんな人に向かって、同情だとか、もうすぐ死ぬとか。言っちゃダメだよ。死んでいい命なんて無いんだから。結衣もキミもね。」
あかりちゃんにそう告げると小さな声でそっと、行こう。そう言って車に乗り、走り出した。

沈黙の車内では、私の嗚咽だけが聞こえていた。
「今の誰?友達?」
「…クラスメイト」
「ふーん。なんかヤな感じだね。でも手は出しちゃダメだよ。先に手を出した方が負け。きちんと言葉で伝えなきゃ。子供と一緒だよ」
「分かってる!分かってる、そんな事。でもリカやゆうちゃんのこと、言われたから」
「そっか、僕の為に言ってくれたんだね。ありがとう。結衣は優しいね。でも喧嘩はほどほどにね。さぁ、もう泣き止んで。可愛い顔が台無しだよ。楽しいデートに行こう」


迷ったけど、今日は水族館デート。
館内を周り、イルカショーを見る。
ランチを食べて、お土産コーナーでお買い物。どこにでもいるようなカップル。
けれど、そんな当たり前が私の幸せ。
別れ際、「明日は仕事なの?」って聞くと、
「なかなか2連休なんて貰えないよ。稼げる時に稼いどかないと」
なんて冗談交じりで言う姿が可愛い。
だから、そっとさっき買ったウツボのぬいぐるみをダッシュボードの上に置いた。
「なんでコレ?ラッコとかペンギンとかもっと可愛いのあったじゃん」
なんて言うけど、笑った顔がなんとなく似てるから。今日の思い出にそっと置いてきた。