「ごめんね、朔病み上がりなのに引き留めて」
いくつか他愛のない会話を続け、話題が途切れたところに莉央が切り出した。
「全然。てゆうか昨日から元気だったし。大事をとって休まされただけ。莉央も知ってるだろ?うちの母さんがめっちゃ過保護なの」
「朔のお母さん朔のこと大好きだもんね」
ほんとの母さんじゃないけどな、なんて言葉を飲み込んで、俺は微笑むだけの返事を返す。
「でも、心配するのは分かるな。朔、優しいから」
「そうか?」
「うん。無理してないかな?って思っちゃう」
「優しくないし、無理もしてないよ」
「まあ朔は、そう言うと思ったけど。私ね、朔のそうゆうとこを好きになったんだよ」
あまりに自然な流れで発せられた言葉に、思わず反応が遅れた。数秒遅れで目を見開けば、莉央は何故か可笑しそうに笑った。
「なにびっくりしてんのー。ずっと前から気付いていた癖に」
「……えっ?」
「私ね、朔が気づいてることに、気付いてたよ」
……なんということだろう。
俺が莉央の気持ちに気付いていたのは事実だ。だけど莉央はそれすら見透かして、気付かないふりをする俺に気付いてたなんて。
でもそれなら何故、今気持ちを打ち明けたんだ。なんのアクションも起こさずに気付かないふりをする俺に気づいていたなら、俺が莉央と付き合う気がないことも気付いていただろうに。
「莉央、俺は……」
「まった」
定型文のような断り文句を口にしようとして、莉央に強い声で止められた。
「少しはちゃんと考えてよ。そんな何回も使い回した台詞で終わらせて欲しくない」
「…あ、ごめん………」
「朔、人気あるのになんで彼女つくらないの?自分が本当は"優しく"ないから?」
またも図星を突かれて、今度こそ俺は押し黙った。そんな俺を見て、莉央は満足そうに笑った。
「私ね、朔がいつもクラスの雰囲気悪くしないために、色々無理したり、頑張って笑ったりしてるの知ってるよ」
「………」
「なんで分かるの?って顔してるね。分かるよ。だってずっと見てきたんだもん。ずっと朔のことばっかり考えてたんだもん。だから朔も、少しは私のことで悩んでよ」
俺は恋を知らない。人を好きになる気持ちは分からない。だからって考えもしないで莉央の気持ちを適当に受け流そうとした。それがどんなに不誠実か今更ながらに気付いて、妙に焦った。
「返事はいますぐじゃなくていいからさ」
「…ごめん」
「だから早いって!」
「違う。さっき、適当に応えようとしてごめん」
莉央は俺がこんなずるい性格なのも、なにもかも見透かして、その上で俺を好きだと言ってくれた。それを蔑ろになんて、きっとしてはいけない。
「……ちゃんと、考えるよ」
「うん。待ってる。送ってくれてありがとう。もうここでいいから、また明日ね」
「ああ…」
踵を返してく華奢な背中を見詰めて、俺は何だか呆然としてしまった。
見透かされてしまった。偽善も作り笑いも。それなのにどうしてなんだろう。
俺は、喜んでいた。



