ついた先は図書室だった。
そう言えば彼女は図書委員だったな、とふと思い出す。
図書室に入りカーテンを閉めると、彼女はようやく真っ直ぐにこちらを振り返った。
「目配せしただけで意図が伝わるなんて、あなたすごいのね」
「………何か用があるんだろ」
「ええ。あなたにだけは言っておきたいことがあって。いつもなら入る邪魔が、今日は居ないからね」
その言葉に、カッと喉が熱くなる。
「……莉央のことかよ」
「あら、他に誰がいるの?」
池上美鈴は小馬鹿にしたようにふっと笑った。態と挑発しているんだ。ならそれに乗せられては行けない気がして、殴り掛かりたい気持ちをぐっと堪えた。
「それで、言っておきたいことって?」
「田中さん。自殺なんてしてないわよ」
「………………は?」
予想もしてなかった言葉を投げられ、俺は反射的に顔を強ばらせた。
「だから彼女自分で飛び降りてないのよ」
さも当然のように言ってのける池上美鈴は、一体何を考えているのか、想像もつかない。
こうなったら変に探りを入れるのは時間の無駄だ。態度から察するに、おそらく池上美鈴も俺と駆け引きをしたい訳では無いだろう。真っ向から向き合うしかない。
「………根拠は」
「あるけど証明はできないわ。証拠となるものはもってない」
「なら言い分を聞かせてくれ。何か知ってるなら、どんな些細なことでもいい」
莉央は自殺なんかしない。それだけは同意見だ。だが現に莉央は帰らぬ人となった。ならその理由を、俺は知らなくてはいけない、そう何故か思っている。
何を考えているのか読めない池上美鈴の言葉を鵜呑みにするわけにはいかないが、何かの糸口にはなるはずだ。
………そう僅かな期待を込めて待った池上美鈴の言葉は、俺の淡い期待を、悪い意味で遥かに上回るものだった。
「だって、私が彼女を殺したんだから」



