ココロの好きが溢れたら




でも、その距離を物理的に縮めるかわりに精神的にかなりのダメージを与える難問がひとつ。


「……」

「……」


目の前には、デーンと圧倒的存在感を放つダブルベット。


そう。

この家のベッドはこのダブルベッドだけ。


いや、これなんの拷問ですか?

好きな人に嫌われてるのに一緒に寝ないといけない私と、嫌いな相手と一緒に寝ないといけないハル。


どっちにも拷問じゃないですか。


「私、ソファーで寝る…」


私はともかく、ハルはただでさえ疲れてるのに私なんかと寝たら疲れが取れるどころか逆にストレス溜まるよ。


「待て。俺がソファーに行く」


え。


「だ、ダメ!ハルは疲れ取らないとっ…」


お互いが譲らず睨み合うこと数分。


ハルが溜息をついてベッドに横になったので、私はホッと息を吐いてリビングへ戻ろうと踵を返した。


「おい。ここで寝ろよ」


そんな私の耳に届いたのは、ハルの少し不機嫌な声だった。


反射的に振り返るとハルが親指で隣を指差している。


隣で寝ろってこと…?


「い、いいよ…ハルが使って…」

「早くしろ」


私から目を逸らすことなくハルは私を促す。

隣に来るまで許さないとでも言いたげな目だ。


ここで逆らっても、面倒くさい女だとまた嫌われるだけ。

これ以上、好きな人に嫌われたくない。


私はハルが寝ている隣に横になった。

私に背を向けて横になるハルは、手を伸ばせば届くほど近いのに、やっぱり遠くて。


それでも好きな人が近くにいることにドキドキして。

寂しいのに、暖かい。


よく分からない感情に困惑しながら、私は眠りについた。


背中合わせに眠るこの距離が、いつかなくなる時がくるのだろうか。


この距離のまま終わりを迎えてしまうのだろうか。


そんなの嫌だな。

ずっとハルと一緒にいたい。


ハルと迎えた最初の夜。


私は溢れてくる涙を堪えることが出来なかった。