ココロの好きが溢れたら



そのあまりにも冷たい目に、私の身体が一瞬凍ったように動かなくなった。


「ハル、挨拶しなさい」


「………よろしく」


ハルは私から目を逸らすと、ため息混じりに一言だけ挨拶した。


本当に、仕方なく挨拶したみたいに。


ショックで動けないままの私の横を通り抜けたハルは、壁際に荷物を置くと練習着に着替え始めてしまった。


「晴翔、もう部活に行くのか?」


「あぁ。コーチが参加するのは早い方がいいって言うからな」


あっという間に部活の準備を終えた彼は、私に見向きもせず家を出て行ってしまった。


「ごめんなぁ、陽毬ちゃん。あいつクライミングのことになると何言っても聞かないんだ」


「ハルくんは将来日本を代表する選手になるんだろ?それくらいが丁度いい」



違う。


クライミングの練習があるということは本当なんだろう。


クライミングのことになると両親の言うことさえ聞かなくなるというのも。


でも。


「っ……」



あの時の私を見るひどく冷たい目…。


あの目を見て、一瞬で理解してしまった。



……ハルは私を拒絶している。



その事実に、身体が指先から凍り付いていくみたいに動けなくなって。


目の前が真っ暗闇に染まっていく気がした。