ココロの好きが溢れたら



「今日はね、けじめをつけに来たの。
晴翔、あたしをちゃんと振って欲しい」


真剣な沙織の目に、俺は頷く。

それで沙織が吹っ切れるのなら。
ひとつの区切りとして終わらせられるのなら。


俺は沙織の望み通り、それを叶えてやるべきだ。



「沙織」


「うん」


「ごめん。俺は陽毬が好きだ」


「…うん」


「俺を好きだって言ってくれて嬉しかった。
でも、沙織の気持ちには応えられない」


「うん。分かった」



誰も傷つかずに済むのならそうしたい。

でも、それは出来ないから。

俺に出来るのは、ちゃんと自分の気持ちを伝えてやることだけ。

願わくば、沙織の次の恋がうまくいきますようにと。



「晴翔、女の子に優しくなったよね」


「あー、そうか?」



とぼけてみるが、実際に優しくしようとしているのは確かで。



「それも陽毬の影響かな?」


「うっせ」



陽毬を好きになって、初めて相手の気持ちを考えるようになった。

自分の好きなやつが、自分を好きでいてくれる。

それがどんなに幸せなことかを知った。


彼女と別れたと落ち込む友人の気持ちを考えるようになった。

フラれたと泣いて友達に慰められる女子の気持ちを考えるようになった。

片思いで落ち込んだり舞い上がったりする奴ら、両想いになれて喜ぶ奴らのことも考えるようになった。


恋愛面だけじゃなくて、普段の会話でも相手の気持ちを考えるようになった。


「最近、晴翔が丸くなって話しかけやすくなったって、みんな言ってるよ」


……確かに、最近話しかけてくる奴らが多くなった気がする。

遊びに誘われる回数が前よりも多くなったような。


そうか。

じゃあそれはやっぱり、陽毬のお陰だな。


あいつの思いやりとか、気遣いとか…柔らかい雰囲気とか。そういうのが俺に移ったんだろう。



「顔がニヤついてるぞ~?陽毬のこと考えてたでしょ」

「まぁな」

「うわ、ノロケられた!!」



もうすぐ夏休みになる。

陽毬を連れて、どこかに出掛けようか。

青く広がる空を見上げながらそんな事を考えて、屋上を後にした。