俊太を問い詰めて聞いてみると、その噂は俺と沙織が実は付き合っていて、公にしないのは俺を好きだという他の女子から沙織を守るためだという話だった。
「で、その噂の出処が沙織本人。自分で1年の女子にそう言ってんだとさ。沙織は基本的に良い奴だから女子にも好かれてるわけで、1年女子は沙織の言ったことを信じてるんだよ」
俊太はその後、「1年の間じゃ、晴翔と沙織が付き合ってることはもう周知の事実みたいになってんだよ」と言った。
……なんだよ、それ。
なんで、沙織はそんなことっ……。
俺が頭を混乱させていると、その様子を見ていた俊太が呆れたようにため息を吐く。
「晴翔は鈍感だからなぁ~」
「は?」
「好きなんだよ、晴翔が」
好き?
誰が?
「沙織はお前が好きなんだよ。ずっと前から」
…………は?
「そんなことっ……」
「あるんだよ。少なくとも、中1の時にはもう好きだったね。晴翔が気づいてないだけで周りにはバレバレだったぞ」
マジ、かよ……。
全然気づかなかった。
俺にとって沙織は、兄妹みたいな存在でしかなかったから。
「婚約者がいるって知ってても、気持ちは抑えらんなかったんだろうな。あんなに分かりやすくアピールしてんのに、晴翔はいつまで経っても気付いてくれねぇし」
うっ……。
仕方ねぇだろ、それは。
本当に気づかなかったんだよ。
それに
「俺は最近まで、自分でも好きだって感情を知らなかったんだぞ」
人を好きになる。
愛おしく思ったり、抱きしめてやりたいと思う感情を知らなかった。
自分で知って初めて、相手の気持ちを考えるようになった。
全部、陽毬が教えてくれたことだ。



