ココロの好きが溢れたら

side 晴翔


陽毬が泣いてた。

正確には、泣いた跡があったと言うべきか。


家で待ってると言った陽毬の顔は、同居し始めてすぐに見た時と同じ、無理矢理作った笑顔だった。

思えば、昼休みの時に俺に何かを言いかけていたのを思い出す。途中でやってきた沙織によって、それは聞けず終いだったけれど。

今すぐ追いかけたいけど、そうもいかない。

運動部の俺はこの後の後片付けも任されている。抜け出したりしたら確実にコーチから罰則を受ける。うちの部は全てが連帯責任…つまり俺が罰則を受けると、他の部員も罰則を受けることになるんだ。


「晴翔くん」


どうしようもなくてモヤモヤしていると、いつの間に近くに来たのか舞子先輩が俺を呼んだ。


「陽毬ちゃんは?」

「今、先に帰りました」

「そっか…」


それから舞子先輩は、俺の目を真っ直ぐに見て言う。


「晴翔くん、陽毬ちゃんって良い子よね」


「…まぁ」


良い子過ぎるから、もうちょいワガママ言って欲しいくらいなんだけど。


「健気で可愛いと思うでしょ?」


「そうですね」


あんなに俺を想ってくれるやつなんて、他にいないだろうな。


てか、なんだこれ?

舞子先輩は何が言いたいんだ?



「ふふ、その様子だと大丈夫そうね。…早く陽毬ちゃんに伝えてあげてね」


……なんでバレてんだ、俺の気持ち。


「陽毬ちゃんの心が折れてしまう前に、必ずよ」

「え、それってどういう……舞子先輩!」



結局、舞子先輩はそれ以上何も言うことなく人混みに紛れて行ってしまった。


心が折れる前にって、なんだよ…。

どういうことだ?


陽毬が泣いていたことと、何か関係があるのだろうか。