ココロの好きが溢れたら



その日の放課後。

いつも通り校門を出てスーパーへ買い物に行こうとしていると、上着ポケットの中の携帯が鳴った。

携帯を取り出して見ると、ディスプレイにはハルの名前。


どうしたんだろう?

今日は午後も授業の日だから、今から部活のはず。

部活前に簡単なメッセージのやり取りはするけれど、電話ははじめて。

少しだけドキドキしながら通話ボタンを押して耳に当てると、ハルの心地よい低音の声が聞こえてくる。


「もしもし、陽毬?」

「うん。どうしたの?」


要件を聞くと、どうやら今日は職員会議があるらしく、全ての部活が早上がりになったそう。

そのため今日は軽い筋トレで終わるみたい。


「1時間ちょいで終わるんだけど、その後部長から風呂入りに行こうって誘われて」


お風呂!

クライミング部の人達が行きつけの大きい健康センターで、たまにハルが土日の練習後に部活の人達とお風呂入りに行ってるところだね。


「そうなんだ。ゆっくりしてきてね」


いつも厳しいトレーニングをしてるんだし。

たまにはゆっくりして体休めないと。


「あー…部長が陽毬も連れて来いって言ってんだけど」


「え?」


「部長の彼女が陽毬と同じ学校で、俺の婚約者ってこと知ってたみたいで。で、部長が彼女連れてくから、お前も婚約者連れて来いって」



もしかして、前に羽柴くんを説得するために雑誌に載ってるハルの写真見せた時の話が彼女さんの耳にも届いてたのかな。


彼女さんも来るなら…。行こうかなぁ。

お風呂もたまには広い所入りたいし。


「分かった!帰って準備するね。何時に健康センターに行けばいい?」


「俺が1度家に帰るから待ってろ。お前1人で道歩かせると危ない」


「え?大丈夫だよ?行ったことはないけど、道は分かるもん」


「迷子の心配はしてねぇよ」


あれ?そうなの?
じゃあ何が危ないんだろう。


それを聞く前にハルは時間だからと通話を切ってしまって、結局ハルが何を心配していたのか分からなかった。