「本人は気付いていたのか!?」

如月刑事が驚く。しかし、それは本人にしかわからない。

「音楽てんかんというものを知らなかったとしても、自分が倒れた時の状況を思い返して音楽が原因じゃないかと考えたんじゃないかしら」

「じゃあ、なぜ入浴中に亡くなったんですか?浴室にテレビの音は届きませんよ」

大河がそう言った。

「発作を起こす音楽は人によって違うの。例えば、教会の鐘の音で発作を起こした人もいれば、ジャズやロックンロール、クラシックで発作を起こす人もいるそうよ。そんな人たちの中には、実際に音楽を聴かなくても音楽を想像しただけで、脳が「聴いている」と勘違いをして発作を起こすことがあるの。匠さんもおそらくその一人だった。彼の場合、女性歌手の歌で発作を起こす人だったのね。そして、入浴中に音楽を想像して発作を起こした」

藍の声が、重く響いては街の喧騒に飲み込まれていく。大河と如月刑事は、その声を静かに聞いていた。