ダリア夫人の屋敷から自分の家へと帰る。お見合いのことを考えると、とても憂鬱だった。

窮屈なドレスを着せられ、宝石で飾られ、笑顔をずっと貼り付けていなければならない。そう思うと逃げ出したくなる。

ヴァイオレットが結婚せず、恋人も作らないのは、きっとルートヴィッヒとの約束があるだろう。しかし、それをダリア夫人に言ったところで「そんな子供の頃の約束……」と呆れられるに違いない。

ヴァイオレットは空を見上げる。空には一番星が輝いていた。

「泊まっていかない?」と言うダリア夫人の誘いを断り、歩いてきた。何となく、今はぶらぶら歩いていたい気分だったのだ。

ヴァイオレットの目の前に、ハナミズキの花が見える。花言葉は、永続性、返礼、私の想いを受けてください。

ルートヴィッヒは花が好きで、花言葉に詳しい少年だった。同じ年の男の子とはあまり遊ばず、ヴァイオレットと一緒にいることが多かった。そして、隣で花のことを楽しそうに話していた。