病気で母を亡くしたヴァイオレットは、トーリスの気持ちが痛いほどわかる。最愛の人を失い、さらに生きる希望までも奪われようとしているのだ。

「……私も、母を病気で失いました。お気持ちはよくわかります」

ヴァイオレットがそう言うと、トーリスは泣きながら、「なぜ、生きていようと思えたのですか?」と訊ねた。ヴァイオレットは優しく微笑む。

「私を支えてくださる人がいたからです。それはトーリスさんも同じです。あなたを必要とする人は必ずいます。人は、独りではないのです」

トーリスは手で何度も乱暴に涙を拭う。ヴァイオレットはトーリスの言葉を待った。

「私は、どうしたらいいのかわからないんです」

トーリスは小声で言う。

「アイリスの治療を続けたらいいのか、それともやめるべきなのか……」

「それは……難しい選択ですね」

ヴァイオレットの胸が痛む。

生きていてほしい。しかし、治療は苦しい。病気で苦しんでいる幼い娘は、どんどん病に体を蝕まれていく。トーリスは、誰も想像できないほど苦しんでいるはずだ。