妻から癌の話を聞かされた二年後、妻はこの世を去った。トーリスは嘆き悲しんだが、まだ幼いアイリスがいるため、懸命に働き続けた。

妻の分もアイリスを愛し、思い出を作った。アイリスの存在がトーリスの生きる理由となっていた。

しかし、アイリスが十一歳になった時、病院の検診で告げられたのだ。

「娘さんは癌にかかっています」

癌ステージは低くはなかったが、トーリスは治ると信じアイリスに癌の治療を受けさせ始めた。それは、苦しみの始まりだった。

抗がん剤でアイリスの髪は抜け、辛い治療に泣き叫び、トーリスは何度も泣いて耳を塞いだ。それでも必ず治ると娘を励まし、今日まで歩んできたのだ。

しかし、運命は残酷だった。治療の甲斐なく癌は進行していく。

アイリスの心も、トーリス自身の心も折れかかっている。そんな時に、ヴァイオレットの話を聞いたのだ。

「……それはお辛いですね……」

ヴァイオレットは泣いているトーリスを見つめる。話している途中から、トーリスはずっと泣いていた。