眼って1番伝える

キモイんだよっていう姉の眼
あんたなんかっていう母の眼
使えねえなあっていう父の眼
家に居場所なんてないんだ

やだ触んないでよっていうクラスメイトの眼
臭いから近寄んなっていう虐めっ子の眼
出来ない奴だなあっていう先生の眼
学校に居場所なんてないんだ

うわぁブスだなあっていう客の眼
声気色悪いっていう先輩の眼
あいつにはなりたくないっていう後輩の目
バイトにも居場所なんてないんだ

家に帰って、着替えして。
机の上のお茶を飲む。
ぬるくてまずかった。
冷蔵庫を開けると牛乳があった。
小さい頃よく飲んでいたなあ、と思う。
俺が飲んで噎せるのを見て
姉も母も父もげらげら笑ってた。
くそ、いつか背越してやる、そう思ってた。
もう皆の背を越して、俺にはなんの目標もなかった。

ちっ
舌打ちをして、缶ビールに手を伸ばした。
かこっという軽い音が鳴った。
ぶわっと口に含む
苦くて不味かった。子供の舌ねと姉に笑われたことが蘇る。
うるせえな。だまれよ。
そのままぐっと押し込んだ。
口はぐうっとしていた。
息遣いが荒くなる。
また噎せてしまった
また笑われる
笑うな。笑うな。笑うな。
さけぼうとしても息が苦しい
咳で喉が痛い。
ぶおんと揺らぐ意識の中で俺は思う。
死にたかったんだなあって

気付くとまだ台所にいた。
頭ががんがんした。
欠伸をすると、近くにいた姉が
うわあ、まだ寝てなよ。っていうかずっと寝て。と笑う。
好きにしろ。
けっと返事をして自室へ向かう。
大体帰ってたなら起こせよ
ビール呑んでたこと怒んねえのかよ
色々言いたかった

吐き気を堪えて、ゆっくり息を吸う。
ここがいちばん安心出来る。
近くにあったメモに遺言を書いた。
遺言、ってかっこいい響きだった
もう終わるんだって思うとぞくぞくした
でもわくわくした
小さい頃教わった
人は死んだら天国に行くんだよって
悪いことしたら地獄に行くんだよって
俺はどっちにも行きたくなかった
あいつらから逃げてるのに
あいつらが来るところへ行きたくなかった
だから上手くやってカミサマと交渉して
ずっと彷徨いたい
考えないでふらふらと

窓を開けると風が入ってきた
風はぶわあって顔を直撃する
心地よい風だなあって思う
窓の外を見る
俺の部屋は3階だったのでそこそこの高さだ
死ねるかどうかは難しい
でも良い
構わない。
窓の縁を抑えて勢いよく飛び込んだ。
ジェットコースターを連想させる
ゆっくり時が動いた。
そして、とっと地に触れた
すっと意識がなくなるのを感じた

俺は生きていた。
ゆらゆらと手も動く
なあんだって思ったけど、安心する
あいつらのために死ねるほど弱くない。
まだやれる。

家に帰ると、親達は真顔でこっちも見なかった。
ただいま、という。でも何も答えない
俺はふと窓から外を見た
真っ赤に染まったヒトの血がべっとりついていた。
俺は姉を叩く。
無反応、どころか空かしてしまった
俺はもう戻れないんだなあって思った
そして彷徨いたいという願いに直面した俺は

この運命が幸せじゃないことに気が付いた