至近距離で俺を見上げる視線、彼女の瞳は今の俺に言いたいことがたくさんある様だったが、彼女は息を深く吐いた後、話し出す。


「以前、……の駅前でユウさん
 一人で泣いてたのよ
 
 わかるでしょ
 そう、原因はあなた

 かわいそうで見てられなくて……」


 自分が勤めている音楽教室にユウを連れて行き、落ち着かせてやったことが、二人が毎日会う程に仲良くなるきっかけになったらしい。


「詳しい事情は聞いてないけど
 だいたい分かるわ

 どうして、受け入れてあげなかったの
 好きなんでしょう、彼女のこと」

「悪いが、君には関係ない」

「そうね、でも、あなたは失敗した

 両思いであること、知らせること
 できたのに」


 そう、俺は失敗した。----確かに、あの日の二人は相思相愛だった。抱きしめ合う時に嘘はなく、ユウは俺を愛し、俺はユウを愛してた。
 
 愛していると俺が口にすれば、ユウは喜んでくれただろう。あの日、ユウが流した涙は、嬉し涙となったはず。それなのに、俺は愛しているとは言えなかった。


「ユウさんは今、あなたから離れて
 あなたのことを忘れようとしてる」


 ユウが俺を忘れること、俺への愛を手放すこと。

 それは、失敗ではないのかもしれない。ユウと俺、二人が一つになれない以上、それは正解。----例え、愛するユウにこの世で二度と会えなくても、二人が距離を取ることは正解。