あそこ、路地に入る彼女の後を追う俺、彼女は結った髪を解いた。ひらり、風に靡く髪がかかる肩を俺が叩くと、彼女は振り返り、驚く。それもそのはず、ついさっきまでステージに立っていた俺が目の前に現れたのだから。


「うわっ、びっくりした
 
 なにっ、何してるの⁉」

「それは、俺のセリフ
 
 聞きたいことがあるんだ

 ……」

「何?

 話せない?」


 聞きたいこと、それを彼女に聞いて答えは返ってくるのか……。口ごもる俺に彼女は言った。


「ユウさんのことでしょう?」

「ああ、最近会ったか」

「ええ、ほぼ毎日」


 毎日ということは、二人は友達にでもなったのか?----『わたし、好きなのよ、ユウさんのことが』彼女、実花はユウのことが好き、二人は……。

 その時、辺りに人が増え始め、ガヤガヤとうるさくなる。そう、ライブを終えて帰宅する人々の群れがある。こちら側を見つめる視線がチラホラ。


「もう、ほらっ、こっちに来て」


 彼女に腕を引かれ入った場所は、店と店との間にできた路地?というよりは隙間に近いだろう。その、極端に狭い場所で向き合う二人、触れ合う距離。

 死角であり、人には見られることはなくなったが、ここはとても居ずらく、窮屈な場所だ。


「あなた、わかってないでしょ
 自分のこと
 
 半端ないのよ、オーラが
 その存在が!

 ただじゃなくても目立つのに
 ……するのよ、まったく」