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 この時、照明が落ちればいいのに……。

 ここは、いつものライブハウス。たった今、人波が止まる。

 曲と曲との代わり目、明るいライトに照らされたままでは全てが見渡され、見破られ、台無しだ。----熱、ボルテージを下げるならば、一度にすっぱりとイキタイ、一度に冷めたい気分だ。

 額から滴り落ちる汗、閉じた瞼を伝いまつ毛に止まる。瞼に触れる黒手袋の指先、覆い隠す半顔、半分だけ見えた赤い唇は言う。


「熱くて死にそう」


 俺の言葉を受け、『キャー』と湧き上がる歓声の中に聞こえた声。----『わたしだって、それなら、一緒にだね』

 手袋のない右手はライトを浴びて艶やかに色めき、しなやかに伸びる。


「次、行こうか

 一緒に……」


 曲は始まり、歓声を、ユウの声を掻き消す。

 大切な箱の中、どこを見渡しても君はいない。俺は、音に合わせ頭を前後に振り、あの日の君の、『バイバイ、カナタ』----悲しい声を消し去る。悪いのは俺、会えないのは俺のせいだ。

 ユウ、君は今、何してる?

 今夜、最後の曲がもうすぐ終わる。----その時、扉から出て行く後姿が俺の目に映る。彼女は曲の終わりと共に一目散にこの場所を去る。

 俺は、章の肩を叩き、一足先にステージを降りる。楽屋口の床にポイッと投げ捨てられた仲間の上着を羽織りフードを深く被った俺はそのまま裏手から出て、彼女の姿を探した。