思いつめた彼方、貴方が変な気を起こさないように、窓から外の世界へと飛び立つことのないように、私は見張る。

 寝返りを打つ私に、届いた微かな声。


「あつくてしにそうだ」

「わたしだって

 ……

 それなら、一緒にだね」


 あつくて死にそうなのはお互い様----あつくて死ぬなら一緒にだね。


「(窓)あけて死にたくない」

「だね……」


『死にたくない』----彼方の言葉に、私は隠れて涙した。掛け布団を深く被って私はそのまま眠りについた。


 私は毎日だって彼方の傍に居たのに、今はいない。

 
----閉まる音楽教室の扉。鍵がしっかりとかかっているか確認した実花さんは、私の腕をいつものように取る。そして、二人歩幅を合わせて歩く。


「今日も私の家で映画でいい?」

「うん、それでいいよ」

 
 コツコツと廊下に響くのは、二人が履いた靴、ヒールの音。その音がピタリと止むエレベーター前、タイミングよく開いたエレベーターに乗ろうとした私の腕を掴み引くのは実花さん。

 コツコツ、コツ、私はエレベーター横の壁に背中をつけた。閉まるエレベーターの扉----壁に手をつく実花さん、彼女の綺麗な顔がスーッと近づくと同時に私は目を閉じた。

 私の唇に触れる、実花さんの唇----今はまだ、それ以上交わることはない、けれど……。
 
 私が目を開けると、実花さんは私のことをジーッと見つめた。