ディモルフォセカの涙

 煌びやかな街のネオンが、より一層この場面に花を添えて私の胸は高鳴る。ドキドキドキドキとあがる心拍数を押さえる為に深呼吸をひとつすると見えた現実----足元に男性を跪かせた私へと集まる視線は多く、何とも恥ずかしい。私は彼の肩を叩き立ち上がるように促した。


「大丈夫、自分でできる」

「そう、ほらっ、肩使えば」

「うん、ありがとう」


 肩を借りてもう片方の靴も脱いだ私は、靴下のままアスファルトの上に立つ。現実は、こんなもの----これはこれで、これまた恥ずかしい……。


「今は我慢して、新しいの買おう
 
 まずはタクシー捕まえよう」

「うん」


 彼と繋いでいない方の手に脱いだ靴を持つ私。行きかう人々の脇をぶつからないように上手に抜けて大通りに出たところで、彼はタクシーを停める為に手をあげた。もう一方の手は私の手をギュッと強く握ったまま。

 すると、道路を走るトラックのせいで吹き荒れる風、強風は彼のハットを飛ばす。

 宙に舞うハット----


「カナタッ、帽子っ!」

「大丈夫だ」


 背を伸ばし上手にキャッチしたハットをもう一度深く被るが、そこはもう手遅れ----爆音を立てて走り去るバイク音に被さるたくさんの金切り声、街中に響き渡る。



「キャーーー」

「キャーー、カナタ~」

「嘘でしょう、あのカナタ?」