「かわいそうな、ユウ」

「どうしたらいいの?

 どうしたら、忘れら……」


 突然、唇に触れた感触----それは強く、そしてだんだんと優しさを増す。

 この時、私は生まれて初めてくちづけを交わした。

 正直、よくはわからない。嬉しいとも幸せだとも、そんな感情、今の私にはない。

 ただ、女の子と初めてのキスをしたという事実だけが残る。
 
 愛しているのか、愛されているのか、友達なのか、恋人なのか、何なのかさっぱり不明。----そのくちづけの意味を、私は後に知る。


 そっと離れた、桃色の唇から語られる言葉。


「忘れさせてあげる」


 一瞬、彼女の顔が勝ち誇った表情に見えたのは何故だろう?

 この目に映る、私に向けられた実花さんの美しい微笑み----私はそれを、美しすぎて怖いとさえ思った。

 なぜだろう?


「ユウ、ほらっ飲もう
 飲んで嫌なこと忘れちゃおう」

「えっ、私はもういいよ
 
 ミカさんもほらっ
 今日はもうおしまいにしよう

 飲みすぎだよ」

「ミカでいいよ、二人の時はミカで」

「ミカ、もう帰ろう」

「そうだね、そうしよう」


 実花さんのその無邪気な愛は、私にだけ向けられていると私は信じていた。
 
 私は、この部屋のピンク色の多さと楽しいお酒に酔い、中てられていた。