ディモルフォセカの涙

 何、悠長なことを……。----こちら側は大変だったというのに。


「違う、ううん
 ライブは楽しかったけどこれは違う

 強いて言うなら、トリ(最後)は勘弁して
 
 ぎゅうぎゅう詰めで出る途中
 靴紐解けて、踏まれて歩けなくて
 放ってきた」

「それは大変だったね」

「うん、(靴)取りに……

「とり

 焼き鳥食べたいな
 ……に食べに行こう?」

「えっ、ちょっ、カッ…」


 私の手を取って繋ぐ大きな手。ダメダメ!----繋いでいない方の手で、私は自分の口元を押さえた。ここで彼の名は呼べない!


「ねえ、私の話聞いてる?」

「ああ聞いてるよ、行こう」


 繋いだ手に力を込めて、私の前をグイグイ歩いて行く彼の大きな背中を追うのがやっとの私の足元には、片方だけの靴。

 夜の街に、二人きり----


「聞いてないじゃん

 靴、どうするの?」

「脱いじゃえば、歩きづらいだろう」

「えっ」


 その場に立ち止まった彼はサッとしゃがんで私の靴を脱がそうとする。それはまるで童話のシンデレラのように----ガラスの靴を履かせてもらうシンデレラとは、真逆だけどね。