二駅だけ電車に揺られて降りる頃には、藍色の空が一面に広がっていて、夜が来ていた。

 駅周辺は、学校や仕事を終えて帰宅する人達で混雑していたが、そこから離れて細い路地に入るとそこは人も疎ら、夜風が吹き抜ける路地を腕を組み歩く二人の靴音だけが響く。

 ぽつぽつと隠れ処的なお店があり、明かりが漏れる。その店先に立つ女性は仲睦まじい私達の姿を見てはコクンと頷き、一人勝手に納得して店内へと入って行った。----彼女は、いったいどういう解釈をしたのか、それがとても気になる私の腕に、より一層密着する実花さんの体。


「私達のこと
 恋人同士に見えたのかな」

「そんな、まさかっ」

「ユウ、もしかしてそういうの
 毛嫌いするタイプの人?」

「ううん、そうじゃないけど……」

「自分がそう見られるのは、嫌?」


 実花さんの言葉は、当たってる。----遠くから見たり知る分には一向に構わない世界、同性同士の恋愛はあるだろう世界、自分とは全く関係のない世界。いろんな愛のカタチがあることを私は認めてはいるけれど、それはこの線、境界線の向こう側の話。


「うん、そう思ったのは確か」

「ユウ、あなたって正直ね
 
 わたし、好きよ」

「えっ⁉」


 私が驚いたのは、まだ一滴もお酒を飲まず酔ってもいないのに、実花さんがキスをしたから。----私の頬に微かに残る、実花さんの唇の感触。