「お店だけど、父の知人の店が
 二駅向こうにあるの

 そこなら会員制だし
 ユウさんでも安心して飲めるわ

 業界の人もよく来るみたいだし」

「そんな!
 気を使わなくていいです
 
 私なんて普段、仲間とそこら辺で
 飲んでいても平気……」

「ダメダメ!ユウさんは平気でも
 反対に(店側に)迷惑かけちゃう
 こともあるよ
 
 ユウさんに興味ある人も無い人も
 お酒飲む場だもの……」


 楽しいお酒の場ばかりとも限らない。面倒なことが起きないように対処することは必要なことだと話す実花さん、それは最もな意見だ。


「面倒なことは極力
 省いていこう、これからは

 それに、誰にも邪魔されずに
 ユウさんと二人きりで静かに
 お酒が飲みたいわ

 いいでしょう」

「はい……」


 甘えたように私にそう告げる実花さん、彼女の綺麗な瞳にじーっと見つめられて、私の胸が今、ドキッと鳴った。----これは、トキメキにも似た感情。ダメだダメだ!女の子にトキメクだなんて、おかしいよ。ナイナイ、あるわけない!
 
 違うと頭を左右に大きく振る私を見て、実花さんは「どうしたの?」と微笑んだ。

 私は置いたままのカップを手にし、残りわずかな紅茶を勢いよく飲んだ。

 恋に破れ、傷ついた私の心の隙間に、そうっと忍び込む彼女の存在。

 魅惑的な香りが、今、漂う。