ディモルフォセカの涙

 私だけが、そのことに気づけずにいた……


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 ここは実花さんの職場だというのに私は居心地がよくて、おかわりをした紅茶もあと少しで飲み終えてしまいそう。----傾けると、見えるカップの底。


「何があったかは聞かないけど
 少しは落ち着いたみたいで
 よかった

 ユウさんには
 笑っていてほしいもの」

「ミカさん、ありがとう」


 実花さんの親切心に触れて、私はとても嬉しい気持ちになった。----その時、壁時計の音が17時を知らせる。


「えっ、うそっ
 もうこんな時間、ごめんなさい
 私ったらつい長居してしまって」


 片づけがまだ途中の実花さん。----今すぐお暇しようと慌てて席を立った私は、誤って椅子を倒してしまう。背もたれから倒れ、床に叩きつけられた椅子。バタン!と教室に響く大きな音。


「うわっ、どうしよう

 ごめんなさい、壊れてない?」


 その出来事に気が動転している私よりも先に、実花さんが倒れた椅子を起こしてくれた。


「大丈夫よ
 ほらっ、ぜんぜん平気
 
 安物だけど丈夫なのよ

 ほらっ、ユウさん座って
 まだいいでしょう
 
 私のことなら気にしないで」

「でも……」