ディモルフォセカの涙


「現に、泣かされてるじゃない

 ユウさん」


 瞬きひとつしない、その強い眼差しを私に向ける実花さんは、私の彼方への想いに気づいている。

 そんな彼女に、今ここで違うと嘘をついても信じてもらえそうにない。

 ううん、図星の私が、彼女に嘘をつけない。


「それは

 ……

 これは、勝手に泣いてるだけ
 カナタが悪いんじゃない
 わたしが

 カナタの愛が欲しくて
 カナタに振り向いて欲しくて
 カナタに

 ……触れて欲しい

 もしかして、わたし、病んでる?」


 瞳から、またひとつ、苦しい涙が零れる。

 愛する相手に、乞うばかりで……自分が嫌になる。


 彼方はいつも、どんな時も彼方で、何一つ変わらずに私の傍に居てくれる。

 きっと明日、会ったとしても彼方は彼方のままで居てくれる。

 例え、愛は与えてくれなくても、私の心に幸せな想いをいっぱいくれる。


 ただ、彼方のことを愛しているって思ってるだけじゃ

 それだけじゃ、ダメなの、ユウ?

 
 欲しいとさえ、思わなければ……


「恋とはそういうものよ

 みんな、そんな想いを抱えてる

 あなただけが特別じゃない」


 実花さんの言葉は、私の胸に重く響いた----

 彼方への想いに押しつぶされて、何かに魅入られたように彼方だけに執着して、叶わぬ恋に嘆き、重ぐるしい空気を全身に纏う。