ディモルフォセカの涙


「登場して、なんだぁ綺麗なだけか
 そう思ったら音が鳴ってびっくり!

 ものすごく上手で、ああそれでか
 って納得しちゃった

 存在感半端ないわよね

 特に彼、カナタさん
 
 あの声、すごく好きな声だわ」


 実花さんはきっと彼方のことが好きだ。----そう以前、感じたままに私は言葉にする。


「カナタのこと、好きですか?」


 あまりにも唐突過ぎたのか、実花さんはとても驚いた様子で返答の言葉が詰まる。

 
「……

 スキ、かキライか
 そのどちらでもないわ

 普通かな

 恋するのはやめた方が
 いいでしょう」

「どうして?」

「だって、病むだけでしょう

 あれだけの男、周りが
 放っておかないじゃない

 彼も自覚あると思うし
 
 選び放題に、振り放題
 何人の女が泣かされてるか……」


 実花さんの彼方のことを邪険に扱う、その言葉は、私の癇にさわる。


「そんなことないです!
 カナタはそんな人じゃない」


 彼方のこと何も知らないくせに、そんな言い草はやめてほしい。----実花さんに向かって嫌悪感をあらわにする私に対して、実花さんはとても冷静に話す。


「気を悪くさせたならごめんなさい

 でも、私が言いたいのは
 
 彼に靡く女なんて
 掃いて捨てるほどいるって話

 入る余地……」


 実花さんの声に被るのは、冷静になれない私の声----


「だとしても、カナタは女の子を
 泣かせたりしない」